0ー24【劣勢】(※)


 もう試合が始まってしまいます。

 どうしたんでしょうか……悠一郎さん。


 対戦順が決まったみたいですね。と、とりあえず確認しましょう。えっと……一回戦は……


「な、何でまた一回戦なのよっ!!」


 きゃっ、びっくりしましたぁ。隣で大声あげるのはいったい誰ですか、って、あ……


「小野寺さんじゃないですかぁ。あ、ユニフォーム可愛いですね〜!」

「可愛いですね〜、じゃないよ……ほら。」


 小野寺さんの指さす方を見てみたら、何と、一回戦の相手は小野寺早希……って、


「えぇぇっ!!!!」

「って、やっと気付いたみたいね。一回戦、アンタと私よ。これも因縁ね。今回はアンタを一回戦で敗退させてやるんだからね?」


 お、小野寺さん……凄い気迫……でも、ユニフォーム可愛い。じゃなくて……悠一郎さん、まだかな?


 すると館内放送で一回戦の開始時間が。わたしと小野寺さんの試合は一回戦第二試合、すぐに開始みたいですね。

 この大会のルールは11点5セットマッチ。3セット先取で勝利。持久戦に持ち込んでしまうと小野寺さんの思うつぼ……やるなら初手から力押しで。


 大丈夫、悠一郎さんはきっと来てくれます。

 たとえ一回戦で小野寺さんと当たったからって負ける訳にはいきません。

 約束、したんですから!


 悠一郎さんがくれた手袋を外しラケットケースにしまいます。


「小野寺さん……わたしは負けませんから!」

「ふん、望むところよ。私も負けない。卓上のヴァルキュリア……アンタを倒して全国でも優勝してやるわ。覚悟しなさいよね!」


 やっぱり小野寺さんは凄い。

 もう年度末のインターハイ出場は決まってるんだ。


 羨ましいな……出たかったなぁ……


 だからそこ負けられない!

 この試合勝って、小野寺さんには全国制覇してもらわないと!




「ラブオール!」



 審判さん、見かけによらず声高い。髭面なのに……ぷっ……だ、駄目駄目……集中しないと……


 ……悠一郎さん……


 まずはわたしのサーブから。

 ……小野寺さんは台の中央より少しバックよりに構えてる。中学の時と少し構え方が変わってる。前傾姿勢、速攻を更に極めてるのかも知れない。


 下手なサーブをフォア側に出すと表ソフトのスマッシュがくる……なら、バッグ側、それも台のオーバーギリギリの位置に高速サーブを出して詰まらせればチャンスがある。


 わたしはバッグ側へドライブ回転をかけた高速サーブを出しました。すると小野寺さんは案の定反応が遅れてチャンス球が浮いて来ました!

 それをすかさずフォア側へスマッシュ。


「甘いっ!」

「……えっ?」


 スマッシュを打って前に出たわたしの左側を白い球が通り過ぎていく?

 ……返されたの?


 0ー1


 そうか、小野寺さんはスマッシュが台にバウンドした瞬間に粒高の面でレシーブしたんだ。

 つまりは読まれていた?

 明らかに違う……引き出しが確実に増えてる。


 脚が……震えて……大丈夫……まだ一点だよ。焦らず一点取り返そう。自身のサーブでリードされるのは避けたいし。


 次は手前に落としてみよう。そうすると小野寺さんは無回転、つまりナックル気味の鋭いレシーブを返してくる筈。フォア、バック……違うっ!?


「……うっ?」


 しまった!

 狙いはわたしの身体でしたか。まさか自分が詰まっちゃうなんて……


 球は何とか相手のコートに返せたけれど、ふわふわとしたチャンス球を見逃してくれる訳もなく二点目も取られてしまいました。

 まずいですね……ペースを掴まれたら厄介です。


 次は小野寺さんのサーブ。

 来た……!

 サイドスピンと見せかけたカットサーブ。回転が下なら力押しで回転を上書きします!


「く……」


 思いっ切り振り抜いたドライブ球は小野寺さんのラケットに触れる事はなかったみたいです。


 これで1ー2です。


 ……


 ……


 8ー10


 その後、小野寺さんの奇抜な戦法に翻弄されながら迎えたマッチポイント……

 これを取られたらセットを取られてしまう。


 ……ゆ、悠一郎さん……!


 サーブは小野寺さんから……

 どっちに来る?

 ま、また真ん中!?

 同じ手は喰らいません!


 回り込んでドライブ、小野寺さんも反応してドライブ!?

 小野寺さん、攻撃も凄く上手くなってる。負けません、攻撃で負ける訳には!

 わたしは渾身のドライブを返す。それを小野寺さんもドライブで返してくる。

 二人共台からかなり離れてきましたね……でも、この手の打ち合いは負けた事ありませんから!


 わたしは上体を逸らしながらドライブに横回転を加えて小野寺さんのバック側に打ち込む。


 ……とった!

 これは反応出来ないでしょ……って、嘘……?


 やられる!?

 小野寺さんがいつの間にか台に張り付いて……ショートバウンドでネット際手前に落とされたら間に合わない!

 追い付いてっ!


「……届いてぇぇっ!」


 あれ?

 球は……球がわたしの後ろで跳ねて、いる?

 そうだ、手前と見せかけてわたしの身体を越えるように長くレシーブしたんだ……


 8ー11


 やられました……強い……

 何より動きが完全に読まれてるみたい……

 すぐに2セット目が始まるみたいですね。次は向こう側です。移動しないと。


 すれ違い様に小野寺さんの声が……


「……まさか、これで終わりじゃないよね?」

「……あ、当たり前じゃないですか……」



 集中しないと……集中……


 今は試合の事だけを考えないと……!

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