0ー23【逃走】
俺は悲鳴のした路地の方へ全速力で走った。
そこには数人の人集りが出来ていた。中心にはバッグを盗られたであろう中学生くらいの女がへたり込んでいやがる。
「犯人はどっちに行きやがった!」
「き、君は……犯人はあそこの角を曲がって……」
「よし、お前怪我はないな。少し待ってやがれ、俺が取っ捕まえてきてやるぜ!」
俺は犯人を追って走った。角を曲がって人気の少ない場所まで来た時、犯人らしき男を見つけた。
そいつは俺に気付いたのか走る速度を上げやがった。その手にはバッグ、間違いねぇ!
そうと決まれば話は早い。
「待ちやがれゴルァッ!!」
「ひぃっ!?」
俺はそいつの胸ぐら掴んでこれでもかと揺らしまくってやる。男は観念したのかバッグを地面に落とし俺の前で土下座した。
「馬鹿野郎が、謝るなら被害者に謝れってんだ。」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……」
「ち、だから被害者に……」
「……そうだよ、な……被害者には……謝らないとな……」
「な、んだ……お前?」
「すまねぇな、にいちゃんよっ!」
————!?
な、ん……だ、と……?
視界が、崩れ落ち……る……どう、なっ……た?
くそ、犯人は……?
にげ、た……の、……かっ……いっ……
……痛ぇっ……こ、れ……血?
…………こんなとこで倒れてる場合じゃ……
……俺は……乙音の……とこ……ろ……に……
騒がしいな。俺の周りで誰かが叫んでやがる。
駄目だ、目、開けてられねぇ……
…………
……
ここは……?
真っ白な天井……っ、なっ、今何時だ!?
時計は午前九時半……バスの到着時刻が確か七時五十分。受付が八時半までで九時半から順次試合が開始……九時半……ぐっ
「こうしちゃいられん!」
と、起き上がったが脇腹にとてつもない痛み、いや激痛が走った。
……
俺はひったくり犯にナイフで腹部を刺され倒れたらしい。隣で見ていたゴツい看護婦さんに今日は安静にと言われた。医者のおっさんも、一日入院だと。
時刻は九時四十分過ぎ、
試合が始まってる。行かねぇと。乙音が待ってる。
俺みたいなヤンキーを……
乙音は待ってくれてる……
「行かねぇと……俺は……」
「駄目よ神原さん。幸い傷は浅いから簡単な処置で済んだけど、開いちゃうと大変だから……」
「いや……それでもよ……」
「駄目なものは駄目。行くならこの私を倒して行く事ね。今の神原さんにそれが出来れば、ですが。」
「ぐぅ……」
ゴツい……今の俺じゃ……この壁は……
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