0ー22【当日】
乙音はひらすら練習に励んでいる。来る日も来る日もひたすらにだ。お袋の紹介でママさん達と共に練習する日も増えた。
壁打ちをしているだけでは勝てない相手という事なのだろうな。俺は見守るしか出来ねぇが、明日の試合には是非勝ってもらいたいもんだ。
なんつってもよ、クリスマスも正月も返上して練習に明け暮れてたんだからよ。
俺としてはクリスマスくらいは……あ、いや何でもねぇやい。そ、それだけ乙音は卓球が好きって事だろうが。健全で何よりじゃねぇか。
おかげで買っておいたプレゼントを渡し損ねちまったが……どうしたもんか。
一月五日、隣町恒例の新年初打ち大会。ホワイトテーブルカップ当日、俺と乙音はしっかり着込みお袋に送り出されバス停に向かって歩く。
乙音の口数が少ないな。流石に緊張してやがるか。
「バス、もう少し待たないと来ませんね。」
「そうだな。寒い、のか?」
「あ、いえ……その……」
とか言って……震えてるじゃねぇか。手が悴んでしまったら良くねぇだろ。
「おい、こ、これやる。」
「こ、これは……!?」
「お、遅くなったが……クリスマスの……手、冷えちまうと試合に影響出るだろ。」
「わぁ、あ、ありがとうございますっ!
こ、これ、もらってもいいんですか!?」
乙音は俺の渡した手袋をはめて心底嬉しそうに笑った。
「そりゃお前の為に買ったんだ。好きに使いやがれよ。」
「悠一郎さんがこんなファンシーな手袋を物色している姿を考えると……ぷふっ、あははっ、可愛いっ、悠一郎さん可愛いですっ!」
「想像するな、つうか可愛くねぇっ!!」
そんなバカな会話をしているうちにバスが到着。乙音が乗り込み俺も乗車しようとした時だった。
「キャァァァッ!?」
ひ、悲鳴!?
女の悲鳴だ……何処から!?
向こう側が騒がしいぞ……?
「ゆ、悠一郎さん……?」
「乙音、お前は先に行け。」
「えっ……でも悠一郎さんは……」
周囲からはひったくりが出たと叫び声が聞こえてくる。今ならまだ間に合うかも知れねぇ。
「お前は俺のどこを好きになったってんだ?」
「そ、それは……わ、分かりました。先に行って待ってますから……必ず!」
「任せろ。サクッと取っ捕まえて応援しに行くからな。途中で負けんなよ?」
「あり得ませんよ、小野寺さんと当たるまでは負けません。絶対です。」
「よし、良く言ったな。それでこそ俺の……か、彼女だ。じゃあ後でな!」
バスのドアが閉まるのを確認し、俺は声のした裏道へ走った。
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