0ー19【結果】



 お、乙音のやつ、とんでもなく凄いやつだった!



 兄貴が完全に萎びちまったぞ。そりゃあれだけボコボコにされたら……

 俺がそんな思考を巡らせてると会場がざわつき始めた。何事だと見てみると……


「お、乙音っ!?」


 おい、どうしやがった?

 倒れちまったぞ!?

 とにかく下に行ってやらねぇと!


 俺はリーゼントを揺らしに揺らして乙音の元へ走った。どうやら高熱が出ているみたいだ。

 そうか、やっぱあの時変だと思ったんだぜ。何か表情がポーッとしてたっていうか……まぁいつもポーッとしてやがるが、何か違ってたんだ。


 乙音のやつ、体調崩してんのに無理してやがったのか。馬鹿なやつだな。


 結局、試合に圧勝、そして棄権した。

 その後、兄貴は見事に大会を優勝した。やはりあの兄貴はかなり強かったようだ。そんな男をめった打ちにしちまいやがったんだから乙音は恐ろしいやつだぜ。


 卓上のヴァルキュリア……か。


 その異名は伊達じゃねぇみたいだな。





「おい、無理して最後まで見なくても良かったんだぜ?」

「い、いえ……せっかくだから……」


 辛そうな顔で俺の肩に身を任せた乙音は優勝した兄貴を見て小さくため息をついた。


 そんな時だった。あの妹が俺達、いや、乙音に声をかけてくる。


「伊草乙音……アンタ、全然衰えてないみたいね。」

「あ……貴女は……小野寺早希おのでらさきさん……ひ、久しぶり、ですね。」

「なっ……名前、憶えてたんだね……そ、それにしてもアンタ、やっぱ強いわね。そんなアンタが何で卓球部のない学校なんかに……そんなんじゃ私のリベンジが叶わないままじゃないの。」


 乙音は身体を起こし無理に笑顔を作る。


「仕方ないんです、色々ありまして。」


 小野寺早希はプイッと横を向いた。


「アンタとは二回試合して二回とも負けたわ。でも今の私は中学時代とは違う。今年のインターハイの個人は優勝するわ。必ず、ね。」

「でも、小野寺さんにはセット取られちゃうんですよね、いつも。」

「ふん……お世辞はいらないわ、卓上のヴァルキュリア。私も次は出るわ。冬にも同じ規模の大会が隣町で行われるの。だからアンタも出なさいよ。そこで積年の恨みを晴らすわ!」


 何て一方的なやつだ。乙音は今、高熱にうなされてるってのに。そんなに乙音に勝ちたいのか。

 すると乙音は掠れた声で返事をした。


「大会の日程と申し込み方を教えていただければ、エントリーしますよ。私も……また小野寺さんと打ちたいです。ずっとそう思って、密かに練習してたんです。」

「わ、私と……」

「そうです。小野寺早希さん、わたしからもお願いします。その大会で思いっ切り打ち合いませんか?」

「の、望むところよ……そ、その時は体調を万全にして来なさいよね。そ、そうだ……申し込みは私がしておいてあげる。

 日程なんかは連絡先を教えてくれたら追って連絡するわ。それでいい?」ドキドキ


 乙音は「はい!」と返事をした。

 こうしてライバル小野寺早希と乙音はお互いの連絡先を交換し、冬のアマチュア大会で雌雄を決する事を約束した。


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