0ー9【授業】
あー……眠い。
つまんねぇ授業だな。極悪ヤンキーの俺にはキツいぜ。
「おーい、伊草殿。それがしの授業で居眠りとは、お主は命が惜しくないでござるか?」
あの馬鹿……よりによって
……って、あの野郎……無視して爆睡してるぞ。その態度、気に入ったぜ。
「い、伊草殿っ!」と、叫んだ志野日はまるで手裏剣を投げるようにチョークを放つ。チョーク手裏剣は見事に乙音の頭にヒットした。
乙音はピクンと小さな身体を震わせ目を覚まし、数学の志野日を見上げる。志野日は乙音を晒し者にする為、黒板の問題を解けと促す。
「……あ……その……忍者せんせ……」
忍者、それは志野日のあだ名で全校生徒共通で使われている。だからって本人を前にして忍者はねぇだろ乙音の奴。
「何だ? 分からないでござるか? 全く、そんな前髪で前もろくに見えていないから、こんな簡単な問題も解けないでござるよ。」
どうやら忍者と呼ばれるのはまんざらでもない様子の志野日、以下忍者は極めて憎たらしく言った。
教室中にクスクスと
「す、すみません……」
「すみませんで済めば忍者は要らないでござるよ。ったく、これだから曲者は……ブツブツ……」
一緒になって笑ってる奴らはこの問題解けるのかよ。それに忍者の奴、乙音の事なんも知らねぇくせに知った風な事を。
お前の方がよっぽど癖が強いだろうが。
……仕方ねぇ、
俺は場を鎮める為に一つ、咳払いをした。
その瞬間、教室は静寂に包まれた。俺にビビって黙り込みやがった訳だ。はっ、どいつもこいつも人を見た目で判断しやがって。
やがて教室中に「おい、静かにしろ。」「殺されるぞ。」「きゃ、こわい……」といった言葉が飛び交い始める。俺を何だと思ってんだ?
乙音はそんな俺を真っ直ぐに見つめてくる。しかも何か嬉しそうにニコニコして。
べ、別にお前を助けた訳じゃねぇやい。勘違いするんじゃねぇよ。
とにかく乙音は勉強が苦手だ。いや、勉強だけではなく音楽の授業でも声は出せないし、体育に至っては貧血で倒れちまう始末だ。
今まで意識はしていなかったが、こうして見るとコイツはいつもこんな感じだった。
「伊草、またか。はぁ、誰かコイ……じゃなくて伊草を保健室に……」
「だ、大丈夫……です、自分で行けます……」
で、いつも一人でフラフラしながら保健室まで行くんだよな。つうか今、コイツって言いかけたよな、この体育教師め。
とりあえず睨み付けておくか。
「な、何だ神原……?」
「いえ、何でも。ちょっと便所行ってきますわ。」
「お、おう、そうか。……無理して帰って来なくていいからな神原。」
厄介払いかよ。そんな事より、今はアイツだ。
あの調子だとまだ下駄箱だろ。
……ほら、いた。座り込んじまってるか。
「おら、乙音。」
「ゆ、悠一郎さんっ?」
「仕方ねぇから背中かしてやる。」
乙音の身体は軽くて、そして柔らかく、
何よりあたたかかった。
べ、別にドキドキなんてしてねぇってんだ!
勘違いすんじゃねぇぞ?
「悠一郎さん……ありがとうございます。」
世話のかかる彼女だな、ったく……
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