0ー7【双子】

 ……


 チックショウ……散々笑い倒しやがって。客もいねぇからって二人でくっちゃべってやがるな。

 仕方なねぇな。食器でも洗うか。

 ……それにしても、乙音アイツあんなに笑ってるの始めて見たぞ。


 暗い奴って決め付けてたが、実は明るい性格なのかも知れんな。ま、ヤンキーの俺には関係な……


「ちょっと悠ちゃ〜ん、ビールが切れた〜!」

「何だってんだ、ビールくらい自分で取りやがれぃ! で、乙音は笑ってんじゃねぇやい!」

「しのごの言わずに持って来て〜、あ、乙音ちゃんの子供ビールもお願いね〜!」


 な、何てもん呑ませてんだお袋⁉︎


「ゆ、ゆうひちほ〜さぁ〜ん! おかあり〜!」

「ばっかやろう! お前も場酔いしてんじゃねぇよ、ノンアルコールだっての!」

「もほ〜、ゆうひちほろすあん、そんなにリーゼントを揺らさなふへも〜、かぁいいですね〜!」

「可愛くねぇ! 格好いいって言いやがれ!」

「……格好いいです……悠一ろふはん。」


 なっ……ふ、不意打ちとかズルいってんだ!

 ついつい胸が熱くなっちまったじゃねぇか! ったく、駄目だ駄目だ、子供ビールは封印だ。


「乙音、お前はウーロン茶でも呑んでろ。」

「ふぁ〜い。」

「ちょっと悠ちゃん? ビール〜!」

「……はいはい。」


 こりゃ駄目だ。まだまだ続きそうだし、とりあえずシャワー浴びてくるか。

 俺はリーゼントの反り具合を調整しながら二階へと続く階段を上っていく。二階のリビングに着くと同時に、俺の身体をドンと押し返すような感覚があった。しかも二つ。


「兄ちゃん兄ちゃん、おかえりデス。なんだか下が騒がしいけど誰か来てるのデスか?」

「兄たん兄たん、おかえりナノ。なんだか下が騒がしくて、爆弾を落としたくなるんだけど誰か来てるノ?」


 妹の悠奈ゆうな悠香ゆうかだ。

 コイツらは一卵性の双子で、デスが口癖の姉が悠奈で、ナノが語尾に来る少しネジの緩いのが妹の悠香だ。見た目は俺でも間違えそうになるくらい似ていて、声も同じ。歳は十で小学四年生だ。


「悠香、爆弾はやめとけ。二人共、飯は済んだのか? 下が騒がしいのはお隣さんが来てるからだ。お袋が吞みだしたし店は閉めた。アレじゃ仕事にならねぇからな。」


「食べたのデス。今からお風呂に入るのデスよ。兄ちゃん兄ちゃん、一緒に入るのデス。」


 悠奈が俺の右腕を引っ張る。それを見た悠香が膨れて反対側の腕を引っ張り始めた。


「駄目ナノ! 今日は悠香の番ナノ! 兄たん兄たん、今日は悠香と入るノ!」

「ち、違うのデス……ゆ、悠香が昨日……兄ちゃんのベッドに潜り込んだのは知っているのデス! ズルいことしたからお風呂は悠奈が!」

「それはそれ、これはこれナノ!」

「む〜、悠奈の方がお姉ちゃんなんデスよ?」

「そんなの、数秒先に出て来ただけナノ! 弱っちぃくせに、えいっ!」

「痛いデス……酷い、悠香がブッた!」

「ふふん、所詮この世は弱肉強食、ナノ。」


 コイツらいつも喧嘩ばかりしやがって。こりゃいいスケバンになれるぜ。特に妹。

 しかし兄である俺は、ここで優劣を決めさせはしねぇのさ。本物のヤンキーってのを見せてやる。


 俺は両手をブンと振り上げ、それを勢いよく振り下ろした!


「デス!?」「ナノ!?」


 お〜、コイツらの髪はいつ撫でてやってもサラサラしてやがるな〜! 風呂に入る前だってのに一丁前に良い香りまでするぜ。

 頭を撫でられてくすぐったそうに身を捩らせる姿が何とも愛くるしいってんだ!


 ……おっと、つい取り乱してしまった。


「仕方ねぇな、二人共風呂入るぞ。俺は先に入ってっから、適当に入って来い。」

「はーいデス!」「はーいナノ!」


 サラサラショートカットの天使達を諭した俺は、風呂場に入ると身体と頭を洗い、湯船に腰を下ろした。……風呂はいいなぁ。


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