0ー4【彼女】


 伊草の奴、ストーカーだって事……否定しなかったよな。それどころか嬉々として俺の事を語るのだから、アレが普通な訳がない。

 そもそも、あんな場所で一人壁打ちする陰キャなんだ。クラスでも空気だし、頭のネジがぶっ飛んでいるに違いないな。


 だがしかし、


「可愛かった……な。」


 俺のストライクゾーンど真ん中でした。

 だから何だってんだい! このヤンキーの俺が卓球少女なんかに心惹かれるかっての!


 ……いや、でも考え方を変えてみろ。

 伊草は俺のストーカーだ。つまり、俺の事が好きという事だ。多分。うん。

 しかも実は美少女。


 いやいやいや、ストーカーだぞ!?


 いやいや、だがヤンキーの俺、未だに童貞……







 気が付けば俺、

 旧校舎に戻って来ちゃってたぜ!


 そんな俺を見て首を傾げた伊草が口を開く。


「えっと……忘れ物、ですか?」

「ば、ばっかやろうっ! そんなんじゃねぇやい!」

「えっと……その……」

「だ、だからその……お前に……伊草に協力くらいならしてやってもいいぜ? お、お隣さんのよしみでな。」


 ……


「い、いいんですか?」

「お、おうよ。男に二言はねぇ!」

「あ、ありがとうございますっ! わたし、何でもしますからっ! 宜しくお願いしますっ!」


 な、何でも? マジか。どうしてやろうか。

 とりあえず……彼女にでもしておく?


「ならよ……お、おお、俺、のの、か、かか……」


「はいっ! 彼女になりますっ! わたしの事は好きにしてくれて構いませんっ!」

「……へ?」

「か、神原さんっ! えっと……ゆ、悠一郎さんって呼んでも構いませんか?」


 なんて顔で俺を見つめてくるんだコイツは!

 んなもん、反則だってんだ!


「お、おう……す、好きにしやがれ。どうしてもって言うなら……つ、付き合ってやってもいい。……えっと……」

伊草乙音いぐさおとねです。ちゃんと彼女の下の名前、覚えてて下さいね? 悠一郎さん。」


 て、天使かコイツは!?


 ば、ばっかやろう! 何うつつを抜かしてんだ!

 俺はヤンキーだぜ。こ、ここは硬派に決める。


「おう、乙音ちゃん……あ……」


『ちゃん』とか付けちまったよ、おい!


「はい、悠一郎さん、何でしょうか?」

「え、と……な、何でもねぇやい!」

「ふふっ、あはははっ、おかしいですっ!」


 伊草は俺を見ては腹を抱えて涙まで浮かべながら大笑いしていやがる。コイツのこんな顔、見た事ないぞ……


「お、お前ヤンキー馬鹿にしてるな?」

「し、してませんよっ、ふふっぶふっ!」

「はぁ……お前、いや乙音ってちゃんと笑えるんだな。初めて見たわ。」

「ご、ごめんなさいっ、悠一郎さんが可愛くて。」


 か、か、可愛いだとぉっ!?

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