0ー1【煙草】
「こんな所で、何してんだ?」
伊草はビクッと身体を震わせ、俺と目を合わさないようにキョロキョロしながら返事を返してきた。
「はっ、はい……その……壁打ち、を。」
「壁打ち? なんでまた……」
「なんでと言われましても……あの……」
ち、モジモジしやがって。
しかし妙だな。確かうちの学校には卓球部はない筈なんだが。
「こ、ここ、このことはっ、だ、だだだ誰にも言わないで下さいっ!」
追い詰められたバンビみたいに震える伊草は、小さな身体を更に小さく縮めながらも、必死に俺の目を見て訴えかけてきた。
暇だし少しからかってやるか。
俺はポケットから
それを伊草に差し出し言ってやった。
「いるか?」
「はっ!? タ、タバコ!?」
伊草は顔を真っ赤にして、ポニーテールをピョンと揺らした。確かいつもはおろしてるよな。
「あ、あのあのっ……私達はまだ未成年でっ……その……神原君、だ、駄目ですよ……!」
必死に訴えかけてくる伊草の表情は前髪で良く見えないが、面白い反応だぜ。コイツ、からかい甲斐あるな。顔真っ赤にしてやんの。
もう少し遊びたいが仕方ない、ここらで種明かしするか。泣かれても困るし。
「食わねぇのか? チョコ。」
「……へ? チョコ、ですか?」
タバコに似せたチョコのお菓子だ。
登校中にひったくりを撃退したら、お礼に女の子がくれた物だ。勿体ないから食べようと人目につかない場所を探していたのだ。
だって先生に怒られるの嫌だしね。
何故放課後なのにわざわざ学校で食う?
決まってるだろうが、ヤンキーだからだよ。学校で食う事に意味があるんだぜ?
と、馬鹿な思考を巡らせていると、伊草がゆっくりと手を伸ばし、サッと摘むようにチョコを手にした。その一瞬だけ、手の動きが人間離れした速さになっていた事に驚いた。
「あ、ありがとうございます神原さん。よ、良かったです……神原さんが不良じゃなくて……ホッとしました。」
「いや、俺は不良だ。こうして校内でお菓子まで食ってんだぜ?」
「お菓子くらい、皆んな普通に食べてますよ。ふふっ、おかしいですっ、お菓子だけに。」
伊草は小さく微笑んだようだ。表情は良く見えないが、口元が笑っているから分かる。
「笑うんじゃねぇやい……つーかさ、お前同級生なのに何で敬語なんだよ。」
「それはその……」
「あぁん……?」
「……はぅ。」
何だ、この沈黙は。
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