◀︎卓上のヴァルキュリア▶︎お隣の卓球少女が可愛過ぎて、自称ヤンキーの俺……あえなくキュン死☆

カピバラ

0ー0【地下】


 俺が歩けば道が開かれる。

 後輩や同級生は勿論、先輩や教師ですら道を譲る。ライオンだって避ける、多分な。

 俺は神原悠一郎かんばらゆういちろう、ここ突張とつはり高校の二年、誰もが恐れる正真正銘の極悪ヤンキーだぜ。


 今日もポマードで塗り固めたピッカピカのリーゼントが決まってるぜ。放課後だというのに朝と寸分違わぬ状態を維持してる。

 ツッパリードのポマードは最高だぜ!


 授業中にはしっかり睡眠をとってやった。俺はヤンキーだからな。

 真面目に授業なんか聞かないぜ。


 そんな俺は校舎の人目につかない場所を探している。ポケットに忍ばせたブツを出すには些か人が多いからだ。こんな所で出したら大事件になっちまう、ま、それも余興だがな。


 そうだ、旧校舎があったな。そこなら先生にも見つからずに堂々とブツを取り出せるな。

 行った事はないが、そこに決めた。




 こうして到着した旧校舎、見るからに古めかしくて幽霊でも住み着いていそうだぜ……


 へっ、怖くなんてないやいっ!


 意を決して、重い扉を開ける。

 中は薄暗いが窓から射す陽の光で視界はそれ程悪くはない。暫く歩くと、職員室、保健室と通り越して二階へ登る階段を発見した。


「二階の教室でいいか……」


 と、その時、俺の耳に物音が、——微かだが確かに物音が聞こえてきた。

 それは何か軽快なリズムで、カン、コン、とか、キュッ、とか、とにかく一定のリズムで鳴り響いている。そしてその物音は……


「……あぁん、地下から……?」


 最初から気にはなっていた。二階に登る階段であるのに、何故か下へ降りていく階段があった事。

 地下があるみたいだ……


 ばっかやろう、怖くなんてないやいっ!


 二階はやめだ。地下の物音を確認してやろう。せっかく見つけた隠れ家なんだ。他人に邪魔はされたくないからな、早いうちにお引き取り願おう。

 ヤンキーは縄張り意識高いって事を思い知らせてやる。




 地下に降りると一気に視界が悪くなった。

 俺は物音の鳴る方へと歩を進める。

 カン、コン、キュッ。カン、コン、キュッ。

 そのリズムに合わせて自然と頭を揺してしまったが、俺のリーゼントは崩れないぜ。


 奥の部屋……あそこだけ扉が少し開いてるな。


 一歩、また一歩と近付くにつれて物音も近くなってきた。……ここだ。

 俺は息を呑み、少し開いた引き戸に手をかけた。落ち着く為に深呼吸を一つ。すぅ、はぁ。


 か、勘違いするんじゃねぇやい!


 別にビビってる訳じゃねぇぜ?

 俺は思い切って、一思いに引き戸を開けた。


 それと同時に物音が止まり、最後にペシッと音が鳴った。そしてコンコン……と白い球が地面を跳ねた。……ピン球、だよな。


 視線を上げると、頬を赤くした女がいた。多分、ピン球が当たったのだろう。

 前髪が長過ぎて顔が良く見えないが、コイツの事は知っている。コイツは……


伊草いぐさ……?」


 伊草……下の名前……忘れた。

 とにかくコイツは俺と同じクラスの女子だ。


「あ……神原……さん……はうぁ!?」


 伊草は俺のリーゼントを目にした途端にあたふたと落ち着かない様子を見せる。

 右手に持っているのは卓球のラケットか。


「こんな所で、何してんだ?」

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