穴が空いた

白銀 蓮(しろがね れん)

穴が空いた

パキ、と音がして時計のベルトが壊れた。

丁度やることがあって、忙しくしているタイミングだったから”割れた”以上の感情はなく、割れた部品をそのままポケットに突っ込んでおいた。

家に帰って、そっとポケットから割れた部品を取り出す。

接着剤でも、直りそうにない部品。

「あーあ。」

それなりに思い出があって、それなりに気に入っていた時計。

物はいつか壊れることは分かっていても、いざ壊れるとどうしていいのか悩んでしまう。

ぼんやりと眺めているとふ、とこれをくれた人のことを思い出した。

怒ってばかりで、よくさよならを言っていた人。

ただ、これをくれたときはお揃いだねだなんて笑っていた。

本当はよく笑う人だった、一緒に良く笑っていた。


すうっと胸の奥の方が冷たくなって、まるで穴が空いたように風が通るような感覚がする。

ほんの数日前が遠い昔のことのような気がした。

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穴が空いた 白銀 蓮(しろがね れん) @SiRoGaNeReN_

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