不完全な金剛石
薄氷 涼
第1話
彼は人間にしては神がかりな才能であった。
それ故に、人間を成り立たせる部品が欠けていた。言うなれば、それは土台である。人間として立つことができる土台が、彼には無かったのだ。並の人間であればその土台は、生まれた瞬間に出来ている。
彼の異常性に周囲が気づくのに、それほどの時間を要さなかった。無駄に優秀であった彼の親は病院へと足を運んだ。すると、病院では抱えきれないと拒否され研究所へとまわされた。当時5歳であった彼の言葉遣いは大人と何ら変わりなかった。
「じゃあ色々なテストを始めるね」
研究者と思われる白い白衣を着た男がそう言うと、5つのテストが開始された。
1番に行われたのは記憶力テストであった。トランプすべてを並べ、場所を暗記してから裏返し、カードを2枚引く、数が合っていればもう1度自分の番になる神経衰弱のようなことが5回ほど行われた。しかし、彼の異常性はここでも発揮され、研究者の男がカードをめくることは1度もなかった。その後、数学や英語などの学力テスト、体力テスト、聴力は視力などの感覚テストが行われた。その結果学力は、既に高校生のレベルであり、体力テストでは100メートルを7秒で走るなど、聴力や視力はマサイ族の3倍はあることがわかった。超能力テストも行われたが、超能力は持ち合わせていなかった。しかし、それでも異常であることに変わりはなく。両親はそんな彼に身震いし、軽蔑した。そして、彼は研究者で暮らすことになった。白くて、ただ白くて、奥行きの感じられない空間。彼にはそう見えていただろう。
────いや、そんなことは無いのかもしれない。
彼には『感情』がないのだから。周りが見えていないのだから。
不完全な金剛石 薄氷 涼 @usurairyou1008
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