縊れ並木

安良巻祐介

 

 自死者のよく現れる並木通りというのがあって、それはそこで人が良く自死するという意味でなしに、自死した人間の影がしばしば目撃されるというのだ。どこで死したかに関係なく、いやそれどころか、いつ死んだかもあまり関係がないそうだ。聞いた限りで最も古い例は、戊辰戦争の頃に厩で縊死した男の、首の折れたままで一見丁寧にお辞儀をしているように見えるのが、ポプラアの陰に立っていたというやつである。また、この道には、まだ死んでいない自死者もたびたび現れるそうだ。言い換えれば、この先どこかで自死を遂げる人物である。そういう風に考えていけば、この並木で行きかう相手はすべて何らかの自死者という話になって、忌まわしいこと極まりない。他人から見れば、その道を歩いている己もまた、自死者のひとりに見えているだろうからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

縊れ並木 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ