坂道の帰り道
雨世界
1 坂道の帰り道で、私はあなたに恋をする。
坂道の帰り道
登場人物
小牧祈 中学三年生の小柄な女の子 陸上部
小町健(たける)くん 祈の思い人 坂の上にいる
プロローグ
坂道の帰り道で、私はあなたに恋をする。
本編
……雨。雨。雨!
その道の先には、大きくて長い、坂道があった。
小牧祈がいつも学校に行くまでに、越えなくてはいけない急な上りの坂道だった。
でも祈は毎日その坂道を自転車で頑張って越えて、学校まで通学していた。基本的に、面倒くさがり屋の祈がそんな重労働できつくて大変なことを、毎日、しかも中学の間、三年間も続けることができたのは、一つのある祈だけの秘密があった。
それはその坂道を上った先にあるバス停で、いつも同じ時間に見かける、一人の名前も知らない男子中学生に、祈が密かに片思いの恋をしていたからだった。
祈にとって、その坂道は、愛しのあの人に会うための恋の坂道だったのだ。(そのための試練だと思えば、坂道なんてなんでもなかった)
祈はそうして、毎年、春、夏、秋、冬と、一年間、学校を一日も休まずにずっと、その坂道を愛用している自転車に乗って、上り続けた。
そして中学一年生の一年がすぎて、中学二年生の一年がすぎて、それから、中学三年生になって、そして、その年の秋の終わりの季節になるころ、祈の愛しのあの人は急に、祈の前からいなくなってしまったのだった。
なぜか急にある日、ずっと同じ時間に同じバス停にいたあの人が、その場所から消えてしまっていたのだった。
それは祈にとって、本当に、本当に心からショックを受けた出来事だった。(本当に魂が抜けるかと思うくらいに辛かった)
坂道の帰り道 雨世界 @amesekai
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