一釣さんとあたし
それから2ヶ月後を迎えた。
大安吉日の今日はよく晴れていて、彼らの門出を祝福しているようだった。
「おめでとうー!」
「幸せになれよー!」
「もうケンカするんじゃないぞー!」
あちこちから投げられる招待客の祝福の言葉に、ウエディングドレス姿の大和さんとタキシード姿の芦田くんははにかみながら答えていた。
とても幸せそうだ。
今日は芦田くんと大和さんの結婚式だ。
「まさか、後輩に先起こされるとは思ってもみなかったわ」
カイちゃんは両手で頭を抱えると、やれやれと言うように息を吐いた。
「でも2人は幼なじみだしね、当然のことながらお互いを知っている訳だし」
「だとしても結婚は早過ぎるわ…」
カイちゃんは呆れたような顔をすると、2人に向かってライスシャワーを浴びせた。
「末次さんとその話はしないの?」
あたしは離れたところで同僚たちと一緒に祝福の言葉を投げている末次さんに視線を向けた。
「な、何でそんなことを聞くのよ!?」
カイちゃんは頬をピンクに染めると聞き返してきた。
「実家に帰ってつきあっている人がいることを家族に報告したら、早く結婚しろって急かされたんでしょ?
その話をしているのかなって思って」
あたしがそう言ったら、
「…まあ、していないと言うこともないけれど」
カイちゃんは呟くように返事をしたのだった。
「そんなことよりも、まほろの方はどうなのよ。
一釣さんと結婚の話をしていないの?」
「な、何であたし!?」
「私にも聞いたでしょうが」
…ごもっともです。
「出ていると言えば出ているけど…」
チラリと、あたしは離れたところにいる一釣さんに視線を向けた。
黒のスーツに身を包んだ彼は、髪もあげていると言うこともあってか普段とは違う印象を感じた。
結婚の話がチラリと出ていると言えば出ているけれど、深くまで話したと言う訳ではない。
「結婚することになったら、招待してね」
そう言ったカイちゃんに、
「もちろんよ。
カイちゃんの方こそ、あたしを招待してね」
あたしは返事をした。
「当然でしょ」
カイちゃんは笑顔で返事をしたのだった。
「あっ」
「んっ、どうしたの?」
「カイちゃんが結婚したら、あたしはカイちゃんのことを何て呼べばいいのかな?」
あたしは聞いた。
結婚したらカイちゃんは“貝原”から“末次”に名前が変わっちゃう訳でしょ?
今の今まで“カイちゃん”と呼んでいたあたしは、彼女のことを何て呼べばいいのだろうか?
末次だから、“スエちゃん”とか?
「ど、どうでもいい…」
「いや、どうでもよくなんかないよ」
カイちゃんは呆れているけれど、あたしからして見たら重大な問題だ。
カイちゃんはやれやれと言うように息を吐くと、
「今まで通りでいいわよ」
と、言った。
「私のことを“カイちゃん”って呼んでくれるのは、まほろだけなんだもん。
結婚しても、私のことは今まで通りの“カイちゃん”でいいわ」
「ホント!?」
そう聞き返したあたしに、
「私がいいって言ってるでしょ」
カイちゃんは呆れたように、だけども満更でもないと言うような感じで返事をしたのだった。
「カイちゃん、ずっと友達でいようね!」
「何を言ってるんだか…」
喜ぶあたしとは対照的に、カイちゃんは呆れた様子だった。
無事に結婚式が終わって、あたしと一釣さんは式場の中庭を歩いていた。
少しだけここを散歩しようと言うことになったのだ。
「いい結婚式でしたね」
そう声をかけたあたしに、
「入社したばかりの後輩に先を越されたことは否めないけどな」
一釣さんはカイちゃんと同じようなことを言っていた。
「それ、カイちゃんも言っていましたよ」
そう言ったあたしに、
「たぶん、招待された全員が思っているはずだ」
一釣さんは返事をした。
青いプールが中央に広がっているガーデンは、とても静かでロマンチックだ。
キレイだな。
そう思いながら色とりどりの花が植えられているガーデンを眺めていたら、
「まほろ」
一釣さんがあたしの名前を呼んだ。
「何?」
そう言って一釣さんの方に振り返ると、彼は足を止めたのであたしも立ち止まった。
「もし、まほろがよかったらなんだけど…」
一釣さんはそう言うと、スーツのポケットに手を入れた。
そこから取り出したのは、青色の小箱だった。
一釣さんはそれをあたしに見せると、パカッと箱を開けた。
「えっ…!?」
そこに入っていた中身に、あたしは驚いた。
小ぶりなダイヤが埋め込まれたシルバーリングと一釣さんの顔を見比べた。
これって、もしかして…!?
一釣さんは眼鏡越しからあたしを見つめると、
「――俺と結婚してください」
と、言ったのだった。
心臓がドキッ…と鳴る。
「あ、あたしでいいんですか…?」
呟くようにそう聞いたあたしに、
「もちろん。
と言うか、まほろじゃないとダメ」
一釣さんは答えた。
あたしは眼鏡越しのその瞳を見つめると、
「はい!」
笑顔で返事をした。
一釣さんはあたしの返事に笑顔で答えると、小箱からシルバーリングを取り出した。
あたしの左手を手に取ると、それを薬指に通した。
キラリと、中に埋まっているダイヤが光る。
それを見た後、あたしは一釣さんの背中に自分の両手を回した。
「責任を持って、まほろを幸せにするから」
一釣さんはそう返事をすると、あたしの背中に自分の両手を回したのだった。
☆★END☆★
パレード 名古屋ゆりあ @yuriarhythm0214
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