とある新種の猫の死がもたらしたもの
むらさき毒きのこ
第1話 一匹のネコの死から考える、生きた証について
新種の猫が発見されたのは、元号が変わった翌日だった。
「旅人(たびと)」と名づけられたその猫は、その形状から「マヨネーズ猫(マヨ猫)」と呼ばれている。今のところ、他のマヨ猫はいないようだ。
名前のせいかどうかは分からないが、マヨ猫はあちこちの町に出没した。冬の田んぼの真ん中を、気持ちよさそうに滑る姿。沖の方で根布や魚と戯れる様子。ワラビ採りの山の主にツチノコと間違われる。
竹下通りのカルビーショップで、床に落ちた揚げたてポテチをかっさらう。女子中学生のプリクラに混ざる。
一躍アイドル的存在となったマヨ猫には、野心があった。それは「人間になる」。
そんな秘めた想いが神に届いたのか、ある日マヨ猫は一人の人間になった。元マヨ猫「旅人」は、作家になった。初めて書いた小説は、世界中で読まれた。題名は
「一匹から始める、世界の歩き方~繁殖しなくても、楽しく生きられる~」。
旅人は、男でも無ければ女でも無い、新しい人類として発信し続け、そして死んだ。
旅人の遺体は大量のマヨネーズになったので、葬儀の参列者はそれを瓶やタッパーに入れて持ち帰って、サンドイッチに塗ったりサラダにかけたり、野菜炒めの油にしたり、ポテトサラダをマイルドにしたり、ご飯にかけたりそのまま食べたり、お好み焼きにかけたり焼きそばにトッピングしたり、トーストに土手を作って真ん中に生卵を落として焼いたり、オムライスにデミグラスソースと一緒に垂らしたり、ありとあらゆる方法で食べた。
皆、マヨ猫の死を悼んだ。
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