夏の終わりの長い雨

@natsuki

夏の終わりの長い雨

 この長雨が過ぎると一気に季節が動く。

 

 あの寝苦しい夜が恋しくなる・・・。


 夏の終わり・・・物悲しく人恋しく、地軸の軋みにざわつく都会の一瞬の静寂。


 ふと軽くなった重力に、物憂げな視線に、夏が終わってしまったことを知る。


 雨のしずくに、生気を取り戻した緑の葉の一枚、一枚に、刻まれた余韻。


 夏が霞んだ積乱雲の下で、とっくに見えなくなってゆくことを心に刻む。


 ふと、書くべきことがあったような気がするのだけれど思い出せない。

 

 相変わらず軒先を伝うしずくの激しさに見惚れてしまう。


 狭い庭に群生する紫陽花が雨にけぶる。


 なにもかもがボヤけて霞む。 


 書くべきことも、見るべきものも、何一つ思い出せない。


 「キミねぇ、いくつ違うと思ってるの、わたしたち・・・」


 「歳なんて関係ないでしょ? 違うの?」


 「キミがオトコ盛りの頃、わたしはオバサンよ、オ、バ、サ、ン」


 「年齢なんてただの数でしょ! そうやって線引きしてるのはあなたのほうだ! なんだっていうの、そんなもの・・・そんなもの」


 あなたはうつむき加減に僕のコトバをただ聞き流した。


 自嘲気味に薄笑いを浮かべたあなたの横顔・・・夏が終わってしまったことを ・・・身に染みる。


 ゆっくりと傘を差したあなたが雨の中に消える・・・。


 あの時追いかけたなら・・・何かが変わったのだろうか?


 雨が続くと、ふと、そんな昔のことを・・・思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏の終わりの長い雨 @natsuki @natsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ