キミの香りが消えるまで嗅ぎつづけたい

@haneyama-hitsuji

V001話

――僕は最終回を見ることができなかった――


――わたしは自分が大嫌いだった――


――あたしはこの世が、この世こそが地獄だと思った――


∨001話



2年前の大事件の影響で街は半壊したが、今ではほとんど元通りに近くなっている

ただ……クシオンと呼ばれる正体不明の怪物が現れるようになったのだ。クシオンは様々な形態があり現れては街を荒らし、荒らし終えしばらくすると煙の様に消えていく……。


死者は奇跡的に出ていないが、迷惑な存在には変わりないので人々は頭を悩ませている。





「クッソー…ようやく追い続けていたランカーに会えたのに」


まだ肌寒い青空の下、桜並木道をママチャリで疾走する【多治見 祝】は心の中でそう叫びながら新調したばかりの黄色い自転車をこいでいた




オンラインゲームにドップリハマっている祝は、朝方までプレイを続けようやく憧れのプレイヤー「ホワイトにゃんにゃん」に出会えたのだ。


だが声をかける瞬間、なかなか起きてこない祝に対して母親から放たれる慈愛の怒号によってほぼ強制的にログアウトさせられ今に至る




「いやーホワイトにゃんにゃん可愛かったな~スタイル抜群だったし、ゲームの中の世界なのに近くにいるだけでいい香りがした気がする」




「今晩……また出会えるかなぁ」




淡い期待を膨らませ白金高校へ続く坂道を下っていく




「よしっもうすぐだ!この調子なら間に合う!」




ヴーン…ザザッ




「ん?」




「…キュオーーーン!キュオーーーン!」




突然サイレンが鳴り響く。クシオン出現警報だ。




「げぇ!?マジかよ!あ、あ、あんぜんな場所に隠れないと……って」




キュワァーーーー




「えっ何この光?」




突然目の前の、どうだろう高さ3メートルぐらいの空間から光の束が降り注いだ。束からにじみ出るように広がる青い煙が辺りを包み込み、光が消えると一気に煙が集束していく




「え?魔人○ウでも出てくるの?」




「………」ズーン




人型クシオンが出現した。雲の様にモコモコしている。全長は2m位だろうか、横幅も膨張して見えるので威圧感は半端ない。目撃されるクシオンの特徴通り全身がターコイズブルーに輝いている。




「やばばばば」




「目・の・ま・え・に・現れた!!」




自転車にまたがった状態の祝とクシオンが対峙している。




「あぁ僕はこの場所で死ぬんだ……なんかクシオンさんもこっちをずっと見てるし。楽しかったなこの人生、中学校の修学旅行で無意味に木刀買ったなぁ、小学生の頃見てたアニメは何だっけ?お母さんとお父さんにもう一度会いたかったなぁ、死者は出ていないって噂聞いたことあるけど僕が第一号になってしまうのか……あっでもそれならそれで歴史に名を遺す事ができるのかな。そしたら僕のあーでこーであーだこーだ……」




キラッ




白目で走馬燈を見ている祝が前方の高校から向かってくる銀色の何かに気が付いた




「ブオォォォォォン!」




バイクが祝とクシオンを遮るように止まった。バイクにはUSRと大きく印字されている。操縦者がヘルメットを取ると太陽の様に情熱的な橙色の髪が風になびく




「君、大丈夫か?」




クシオンを刺激しないよう小声で話しかけてくる




「はぃぃぃ、大丈夫ですぅぅ」




この女性は【秋本 ナツミ】ウルトラスーパーレスキュー部、部長。白金高校の超有名人。入学前の僕でも知っている。文武両道・才色兼備まさに漫画に出てくるような美少女だ。


街を荒らすクシオンに対して人類は何もしてこなかったわけではない、ダメージを与え追い返す技法も開発されていた。その技法を使いこなしクシオンから人々を守り、時には戦うのがウルトラスーパーレスキュー部(略式USR部)なのだ




「よし!クシオンは私が引き受けるからその隙に高校へ逃げ込むんだ。わかったね?」




「はい!」




我ながらビビりで情けない。女の子が自分を守って戦ってくれるのに、自分は自分の身を守るために背を向けて振り返る事も無く逃げている。さっきまで死を覚悟していたのに、希望が見えると必死にそれに縋ろうとする。本当に自分が情けない。本当に情けないな……。




『○○○○○○○?』脳裏に突然言葉が浮かんだ――






「グヴォォォォォォ」




祝が見えなくなると突然クシオンが両手を挙げて威嚇を始めた。




「さぁこいっ!なんど現れようと、なんどでも倒してやる!」




ナツミは紋章が入ったガントレットを装備した拳を握り構えを取る。その瞬間クシオンも威嚇していた両手を下ろし、コッペパンのような手を前に出し構えを取った……




刹那、ナツミが一気に距離を詰めロールパンのような腹に渾身の正拳突きを叩き込む




「ボコォオン!」




パン怪物の腹に穴が開き、フランスパンのような膝がくずれ地面に倒れた……クシオンの体が煙り状となり消えていく




――クシオンには物理攻撃が有効――




「ふうっ。終わったか…」




背を向け携帯電話で報告をしようとしているのか電話をしようとしている


――その瞬間、動くこともできないと思っていたパンの右腕がロケットパンチのように飛び出しナツミに向かっていく




「ドォォン!!」




「君!なんで…」




……「どさっ」




祝はナツミを守り、倒れた…。










数時間後




「あれ……ここは家…か…」




気が付くといつもの天井が見える




「痛っ」




起き上がろうとすると背中に痛みが走った。もろに攻撃を食らったのだから仕方がないことだ。


きっと背負っていたカバンが無ければもっと酷かったに違いない。中身に昼寝用のクッションを入れておいて本当によかった。……でも待てよ、クシオンの攻撃ってその程度なのか?最後の最後のいたちっぺが直撃したのに――




「……まぁ考えても仕方ないか」




痛む体を起こしパソコンの前に体を移す。




「ふぅせっかく暇が出来たんだ。ゲームやろっと」




カタカタ




「ん?んんんっ!」




「ホッホッホワイトにゃんにゃんからメールが届いてる!!!!」




まるで好きな人からのラブレターが届いたかのように心弾ませてメールを開封する






――聖なる円環の台座にて↑↑↓↓←→←→冷温と呪文を唱えたまえ――






「……なんじゃこりゃ。↑↑↓↓←→←→冷温って昔のゲームの裏技かよ。でもなんでこんなメールを僕に……」




輪っかっぽい物を探し部屋を見渡してみると一つ見つかった。羽無し扇風機だ。丁度リモコンには十字キーと冷・温ボタンもある。




「まっさかね。えーっと?↑・↑・↓・↓・←・→・←・→・冷・温っと」


ポチ…ポチ…ポチ




シーン




「なんも起きねーじゃねーか!」




「待てよ。昔のゲームは入力時間に厳しかったという話を聞いたことが有る。ふふふっゲーマーの祝様を舐めるなよ!」




↑↑↓↓・←・→・←・→・冷・温!




シーン




↑↑↓↓←→・←・→・冷・温!!




シーン




↑↑↓↓←→←→・冷・温!!!




シーン




「うえうえ!したした!ひだりみぎ!ひだりみぎ!れい!おん!!オラァァァこれでどうじゃぁぁぁ!!!」


祝は壊れた




キュワァーーーー




「えええええ。なんか扇風機の中央が光ってる」




壊れた祝は扇風機をつかみのぞき込もうとしたその時




「きゃあーー!どいて!どいてぇ!」




ボコォン!




「痛てててて、何が飛び出してきたんだ?ん?なんか額に違和感が」




扇風機から飛び出した何かと正面衝突した祝は、自分の額に硬い何かがある事に気が付いた。鏡を見るたび振り向くと




「なんじゃこりゃあ!!!」




祝の額に長細い石が埋め込まれていたのである。呆然としている祝は扇風機の横に伸びている人形の様な物に気が付いた。




「これは……妖精??」




肌は白く髪の毛は黒色、全長は15㎝位、とにかくお胸がすごい。




「おねぇちゃん…」




うなされているのか、とりあえず有り合わせのものでベッドを作り寝かせようとしている最中、妖精らしき者は目を覚まし祝の顔を見ると。




「きゃぁぁぁぁぁ!輝香玉が!!」




バタン!




「また倒れた。なんなんだこの妖精みたいなのは」




それに輝香玉ってなんだ?額の石の事か?まぁ目が覚めたらゆっくりきこう。それまでは観察だ。祝は虫眼鏡を装備し目覚めるのを待つのであった。

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