第2話「アリストテレスはピンク色だね?」
「そりゃあミズが迂闊だったんだよ」
数こそ力とばかりに全国展開を精力的に行っているチェーン居酒屋は一般市民の猥雑な感情の
「そうなのかなあ」
骨折した経緯を説明した水子は釈然とせず首をかしげる。
食パンタックル法は中学生の頃に薮さんも実践していた。彼女は見事に
「そうに決まってるね」金子は赤ら顔で断言した。「そのアドバイザーとやらが本当に結婚していてあまつさえお相手が金持ちのくそイケメンってことからして疑わしいね。デカルト知ってる? 疑えよ。というかそもそも結婚に必要なのは運命じゃないっての。いや、運命はあるにこしたこたあないけど必須じゃないっての」
「じゃあ何が必要なの?」
「男さ」
雷が落ちた。水子は落雷を受け全身が焼き焦げる衝撃を感じた。結婚に必要なものは男。そのとおりである。金子は正しい。思えば当初は水子も結婚には相手が必要だと考えていたのに、それがどうにかこうにか捻じ曲がって運命を求めてしまっていた。ここは初心にかえり、男を探すべきなのだ。水子は黒焦げコンガリーヌから不死鳥の如く蘇った。
「わかったよ、カネ。私、男を探す。それもとびきりビックでダティでサンダーなイケメンをね!」
「その意気よ。然らば今夜は私が良き場へと
金子はクリムゾン・ヘキサゴンしてる店員さんに威勢よく伝票を突き付けた。
○○●
さて。
というわけで二人で行きたるは昨今流行りというなる相席居酒屋なる雑居ビル4階であった。
勝手知ったるはという態度で進む金子。それに付き従う水子。
「私こういうところ初めてなんだけど行ったことあるの?」
「ないけど」
「ないんかい!」
水子のツッコミが炸裂した。金子はできると思えばそれだけで自信を持てる得な性格をしていた。一方の水子は慎重な性格だったので客観的な事実がなければ自信を形成することができなかった。
「でも予習は万全だから。ノルマントン号に乗ったつもりで安心してくれ」
「私たち全滅じゃん」
二人とも黄色人種だったのでそのまま溺死一直線だった。
「まあ、要するに相席居酒屋ってのは女はただで飲み食いできて男とも出会える美味しい場所でござんすよ。女は着席、男は理想の花を求めて席をくるくーるってタイプが多いでござんす」
「その語尾どっから来たの?」
「火星から」
「火星からかー」
さて。
そんなこんなで話していると、とうとう二人の王子様候補がやってきた。
王子様候補は二人ともスーツを着ており、話によると会社の先輩後輩の間柄とのことだった。先輩は銀縁メガネをかけた真面目系で、後輩は馬面の体育会系だ。
男女四人の会話が始まる。
「そうそう、最近吉住がふられちゃってね。それで新しい出会いが「え、カレシ? いたら来てませんよ「ビールですねビール一択。ビールに非ずんば酒に非ずって感じ「株やってるの?「昔と違ってとか言いますけど確かに今の子供は自分とは違うなって」
会話が続く。
「知ってますかバナナが何故黄色なのかを「さすがー知らなかったーすごーいそうなんだーソルティライチくださーい「趣味ですか? 烏賊の背骨を抜くことです「明日の会議で人類撲滅計画を「それでさー「怖い「酢豚が宙空でんぐり返ししてさー「酢豚が「酢豚が「たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、「先日スポポビッチだったので、その製品上の瑕疵が影響してるのかも」
河合がぐずず。
「水子ちゃn荳也阜t縺ッ「いい鄒ポ弱@縺w「あのさLIN縺翫▲縺ア縺?〒縺九>縺ュよ「佩っぱ????かいね「縺医?縺?繧薙→縺句捉霎コ螟ァ蜷阪↓貊?⊂縺輔l縺ェ縺?h縺?・ョ髣倥@縺セ縺吶?「§~取立鬘d 縲鯉シ壹ぐ繝輔「好き好き好きAgokuユ繝?ラ 縲 荳?譚。縺ョ蜈 縲懊?いいよね 縺薙?蟆剰ェャ縺ッ縺>縺ァ縺吶¢縺ゥ?「���「手長エビ 譏取律縺ッ邯コ鮗励□縺」縺�����H!!!「もdちょ著号・ソ。シ・���������オそうてました鐚豚下手「motyo祁dou☆★hそい縺溘→縺医?蟄、迢ャ繧呈─縺倥k縺ィ縺励ああああ※dfku???「空右民謡有、、、、r名ぐ世界か」
水子は既に自分が何を話しているのかわからなかった。相手が何を話しているのかもわからなかった。けれどもコミュニケーションをとっていることはわかった。畢竟、どこにも開かない個々人が行うコミュニケーションにおいて、その中身など本質的には無意味であり、コミュニケーションをとっている事実自体が重要なのだ。そしてこの無意味の積み重ねで断絶がやわらいだと錯覚し、男女の
●●●
「アリストテレスはピンク色だね?」
そう言って銀縁メガネが水子の背中をさすった。
水子は銀縁メガネに支えられてふらふらと歩いている自分を認識した。ここはすでに相席居酒屋ではなかった。いつのまにか四人で紅灯の海を泳いでいた。どうやら金子も同じように馬面に連れられているようだった。
「えろろろい」
「ぱぱぱぱこぱこん欲」
性染色体XY型保有者どもは、理性の生皮をかぶり何事かを発声する。
やがて辿り着いたるは
あー、と水子は思った。あー。それしか頭が働かなかった。
「旧ネイル仕様。取り憑かれタージマハール」
「大乗仏教7も2もシナモン柄」
もはや水子にこの流れを止める術はなかった。止めるという発想すらわかなかった。けれども彼らはそれで構わなかったし、そもそも水子たちに肉人形以上の価値を求めていなかった。
あーあーあーとその時、水子に声をかける者がいた。
「あら、大海原さんじゃないか。こんなところでどうしたのですか?」
それはちょうどラブホテルから出てきたカップルの片割れである冴えないデブ女だった。何を隠そうゲリラ豪雨である。
「あの、彼女たちだいぶ正体失っていますが大丈夫なんですか?」
「そそうなんですよ、だからちょっと休ませてあげようと思って!」
「ラブホテルで? それはちょっとどうかと思いますよ」
ゲリラ豪雨が常識的な表情を作った。具体的にはゲジゲジのように太い眉をひそめた。
「本当に具合が悪いなら家まで送り届けるべきです。彼女たちの住所を知ってますか?」
「いやー、それはちょっと知らないかなあ」
「私は知ってます。だから私が送り届けます。だからここで解散。よろしいですね」
決まり悪そうにする銀縁メガネと馬面にぴしゃりと断言する。その勢いに押され、惨め敗残者、二人はすごすごと立ち去った。
「知り合いなのかい?」
「ええ、お客様よ。悪いけどタクシー呼んでもらえないかしら」
「もちろんだともハニー」
一緒にいた男は登録していたタクシー会社の電話番号をコールして配車を依頼した。彼が架電するさまを水子はぼんやりと眺めていた。
そうしてゲリラ豪雨夫妻は無事に水金コンビを自宅に送り届けたのであった。
○○○
さて。
あくる朝。
正気を取り戻した水子は自宅で叫んだ。ほぼ同時刻、金子も叫んだ。
「めっさイケメンやん!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます