第11話 亡霊エリィ・ヘレンズ

「お前と同じ、転生者のホムンクルスだ!」


「転生者!?」


驚いて魔王を注視したが、とても日本人とは思えない容姿をしている。

茶髪茶目で俺と……一緒?


「そうだ、こんな見た目だが日本人の転生者だ。

そういうお前も転生者、レイク・カスケーズで間違いないな?」


「そうだ……、いや、そうです。 隣にいる彼女は」


ここでセレスが会話に割り込んで自己紹介する。


「セレス・カスケーズ、レイク・カスケーズのつがい試作機プロトタイプとして私は生まれた」


つがい……、ね。

転生者だと思い聞かなかったが、彼女は通常のホムンクルスか?」


「はい、私はホムンクルスの技術実証実験の結果生まれたホムンクルスです」


「なるほど、技術確認のための試作機プロトタイプか。

それを復活させ、改良したのだからⅡ世デドラと名乗るだけはあったのか」


何故か魔王は悲しげな表情をして、港町イーマンスに顔を向ける。

それも一瞬で、直ぐに俺達に向きなおした。


「本来、お前達に気づかれぬ様に調べるつもりだった。

思わず感情的に動いてしまったが、ここなら丁度いいのかもしないな」


口元が三日月のような笑みに変わる。

魔王とエリィの戦闘で出来た鎖は未だ周りに展開したまま。

足に巻きついた鎖も外れていない。


「俺達をどうするつもりだ!!」


不穏な空気に慌てた俺に、隣にいたセレスが手で俺の口を軽く塞ぐ。


「私に任せて!」


そう言って微笑む彼女に守られる。

情けない、情けないが、俺が魔王に何もできない。


その姿を見て苦々しい顔をする魔王。


「女の後ろに隠れて情けないが、少しは落ち着いたか?

始めからお前たちを殺すつもりは無い。

聞きたいことがあったんだ」


「それなら回りくどく調査せずに、直接聞きに来ればよかったのでは?」


「聞いてもそれが本当だとは分からない。

最悪の場合は、姿を見せた瞬間に逃げられ消息不明とんずらだ」


「結果は真逆でしたね」


「そうだな、死者の後悔を舐めていた。

エリィ・ヘレンズ、貴様は罪人なら誰でも殺すのか?」


魔王がこちらを見るが、変身する前は俺達以外エリィの声は聞こえない。

そのことを伝えると、エリィの様な位置を特定できない独特の声が聞こえてきた


『そのことなら問題ありません。

私の予想通りでしたらエリィ・ヘレンズの声も届きます』


「今のはまさか!!」


「エトナ・イングラシア、第六魔王に殺され、レイクそれと同じ様に俺の基本素体になった女だ」


『聞こえてるようですね。始めまして、私は元エトナ・イングラシア、今はエイと名乗ってます』


「俺と同じ亡霊!?」


俺が驚くと魔王は意外そうな顔をした。


「亡霊? 意味は正しいが不適切だ。

その呼び名は体の主導権が亡霊に移ったときに、生き返ったと錯覚する」


『死者は元に戻りません。

エリィ・ヘレンズが貴方から体を奪ったとしても、そこに居るのは彼女ではなく

第七魔王でしょう』


「実際には第七魔王モドキだろうが、討伐されなければ第六魔王と同じ様になる」


第七、第六魔王とか何のことだ?


『第六魔王が元英雄のアンデット、私も同じ様になるかもしれないってことだ』


不機嫌そうなエリィが補足した。


「その通り、考えたんだが魔王になり無差別に罪人を殺す奴なら、今ここで殺した方がいいと思わないか?」


どういう訳か方針転換した魔王。

セレスが大鎌を構えて俺を守れる位置に付く。


「舐めるな魔王!

死しても私は帝国騎士であり、殺すのは死罪相当の者だけだ!!」


わざわざ俺の口を動かして宣言するエリィ。

剣を持った腕を動かしフィリアを指す。


「その証拠に盗賊に与し協力しただけのフィリアは殺してない!」


「それで暴走しないと言えるのか?」


「暴走しないなど、どのように証明する?」


「……そうだな不可能な証明か、ならやっぱり殺しておくか。

デドラⅡ世が何をしたかったのか知りたかったが、今となっては些細なことだ」


周りに辺突き刺さった鎖の槍が一斉に動き、俺に矛を向ける。


「隙を見て鎖を外す、だから信じて!」


そういうや否や自身に身体強化魔法を施して魔王に突撃するセレス。

彼女の大鎌の外側に剣の様な氷柱が何本も伸び、振ることで遠心力を使って氷柱を魔王に飛ばす。


大鎌に振り回される様に、走ってる最中ふらつきながらも二回氷柱を射出したところで俺に視線を向け足を指差した。


「え!?」


足に巻き付いていた鎖が切断され自由に動ける様になっている!!


驚いてセレスに視線を向けると、向かってきた鎖を凍らせて止めていた。

対する魔王は鎖が凍らされた段階で即席の槍を錬金術で作り出し、セレスの接近戦に対抗する。

セレスは大鎌の鎌を上に向け槍のような使い方で攻めるが、攻めきれず次第に防戦一方になる。


有利に戦闘を進めてるのに魔王も顔をしかめる。

エリィに抉られた左肩の破損で、右腕だけしか使えない。

それに加え即席の槍なので耐久力を気にしながら振っているせいだ。


互いに魔法を使う余裕は無く、槍と大鎌がぶつかる音だけが響く。


先に崩れたのはセレスだった。

大鎌を大きく弾かれ、前に有った鎌が後ろに、石突きが前に、前後反転するほど

弾かれた大鎌は、セレス本来の構えになる。


セレスが崩れると判断し、一歩踏み込んだ魔王。

その足を狙い、地面から生えた鎌の刃が斬りかかる。

鎌の刃それをセレスの目線から読んでいた魔王はジャンプして躱した直後、大鎌に内臓された隠し武器の鎖分胴が発射、魔王は直撃を受け吹き飛ばされた。


「糞、崩れたのは誘いか!」


吹き飛ばされた魔王は、体勢を元に戻し非戦闘員おれを見た。


「どこ見て?」


ヤバイと感じた時には既に槍が側の木を貫いていた。


「ち、外したか」


俺に槍を投げた。

そのことに気付いたセレスは武器を変化させ怒りを露わにする。

大鎌の刃が90度回転し逆刃の薙刀に、鎖の部分は錬金術で錬成し長さを調節。

変形した武器は大鎌と言うより、逆刃の大薙刀。


「もう出し惜しみは無しです」


そのまま突撃するセレス。


龍の吐息ドラゴンブレス


魔王が右手で火球を作り、息を吐く。

その攻撃は魔法名の通り、ビームのようなドラゴンブレスとなってセレスに向う。


セレスも見え見えの大技を食らうほど弱くないので避けるが、余波で周囲の木々が燃えるほどのビームは、大きく避けても軽い火傷を負ってしまう。


熱で凍ってた鎖が復活し、龍の吐息ドラゴンブレスで怯んだセレスを狙う。

鎖の槍チェインスピアで時間稼ぎしてる間に錬金術で多数の槍を作成。

魔王はその内の一本を取り地面に刺す。

残りは作って直ぐにセレスと俺に向け、投げ槍の乱射を開始。


「マジかよ!」


俺は木の裏に回り、貫通しそうな攻撃だけ

セレスは瞬時に鎖と投げ槍を見切り、叩き落とし、間合いを詰めるため前へ前へ。


そんな時にエリィが俺にしか聞こえない様に、一つの作戦を話した。

何もできないと思ってた俺だが、エリィが言う作戦ぐらいはできる………、多分。

作戦のため、逃げ回る振りをしながらフィリアに近づいて行く。


最初は威力を重視してた投げ槍が、徐々に連射性を重視した物に変わる。

木の裏に隠れればやり過ごすことが出来る威力に変わったが、それだとフィリアに近づけないため危険を承知で前へ。


鎖と投げ槍を回避・迎撃しながら前に進んでいたセレスが俺より先に間合いに魔王を捕え、平突きを放つ。

フェイントも無い素直な一撃だったために、首を動かすだけで避けられるはずだった攻撃は、魔王の左目を斬った。


「!?」


予想外のダメージに魔王の攻撃が止まり、後ろに下がろうとする魔王に追撃を放つセレス。

追撃を槍で大きく弾いたが、薙刀の刃が地面に刺さると同時に、魔王の足元から刃が出て足を切り裂く。


「またか!」


セレスが「更に追撃を!」と思ったところで魔王が自爆覚悟で魔法を放った。


「≪三番目の希望アークトゥルス≫」


無詠唱のため威力は落ちていたが、国の軍を滅ぼす魔法は周囲一帯を巻き込み大爆発、煙で何も見えなくなる。


「あー、糞、自爆もいいとこだ」


本来なら右手の魔法で周囲一帯を爆破し、左手の防御魔法を展開して防ぐのだが、痛みが無いため使を忘れていた。

愚痴る魔王は胸から下が全て吹き飛び、左肩から先も無くなっている。


「………これ、めっちゃキツイ」


同じく愚痴るのは俺の体を動かしてるエリィ。

こちらも変身せず俺の体を使ってるせいで、片言になってる。


「殲滅魔法、防ぐ……、キツイ」


咄嗟に俺の体を動かし、セレスを引き寄せ、フィリアまで退避すると大爆発から半球状の魔法の盾を作り守ってくれたエリィだが、今日は彼女が変身や調できる時間を超えてる。


「守る………、守護者……、国、仲間、は守る」


「何が言いたい?」


片腕しかない魔王が姿勢を変え尋ねた。

エリィは何故か喋れないので代わりに俺がエリィの言葉を紡ぐ。


「私はオーカム帝国の元英雄、元守護者だ。

死んでも心は変わらず、仲間と共にある。


上に妬まれ、部下に裏切られ、殺された私だが、一番の後悔は仲間を守れなかったことだ。

悪を排除し損ねたことで善良な元部下や仲間達が苦しんでる。

死んだが動けるのなら、仲間を守るため罪人を殺す。

それが私、亡霊エリィ・ヘレンズだ」

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