第10話 最古の魔王

「ホムンクルス……、否、レイクとセレスについて知ってる全てを答えろ!!」


そう言い放ったのは魔王、それも六体居る内で一番古い第一魔王まおう


「なんでこんな化け物の中の化け物がここに!?」


つい、口に出てしまった言葉に顔を険しくする魔王。

それだけ、それだけのことなのに魔力が物理的な圧力として襲ってくる。


圧力を受けたことで、頭の片隅にあった魔王に似た人物と言うのが否定された。

こいつは間違いなく、魔王だ。


軽く睨むだけで魔素に影響を与え、相手に圧迫感を与えられる人間なんて………、エリィ・ヘレンズぐらいしか知らない。



…………ああ、そういうことか。


第一魔王コイツもホムンクルスだ。

禁止されてるのに作られたホムンクルスが気になるのか?

そもそも私が知ってることなんて無い。


「し、知らない」


だから正直に答えた。

一日だけ一緒に居た、それだけの関係で答えられるほど知らないってのが本当だ。


その答えは、魔王から聞けば仲間を売るのを拒絶したように聞こえただろう。

無言になった魔王に、遅まきながらそれを認識して慌てて訂正したけど、頭の中が一杯一杯で何を喋ってるのか分からなくなっていた。


時間稼ぎなんて考えてなかったのに、話し終えるとタイミングを見計らったように追手ホムンクルス達が追い付いてくる。


「……タイミングがいいな、偶然か?」


私より先に気づいた魔王は、特に何もせずにホムンクルス達の到着を待つ。

急いで来たのか、魔法で先に此方の様子を確認した後、余裕がありそうだと判断したのか、息を整えてから姿を現した。


「現れたな兄弟ホムンクルス! お前らはレイクとセレスで間違いないか?」


「誰だ?」


本当に、誰だよ?


俺達が追いかけてたフィリスが何やらヤバイらしく、嫌々ながらセレスにお姫様抱っこされ此処まで急いで来たけど、マシンガンに撃たれたような死体が散乱する森の中に彼女は居た。

何故か俺と同じ、茶髪茶目で中性的な顔をした男と一緒に居るが、仲間とは思えないほどフィリアが怯えている。


「俺の顔を知らない? 写真は無いが、油絵ぐらいはあっただろう?

本当に知らないのか?」


「知らな『あれは魔王だ』」


エリィが声に被せて来たが、出た単語がヤバイ。

『魔王』って、、あの魔王か!?


『不老の(戦闘用)ホムンクルス。

前第一魔王を倒し、第一魔王に取り込まれた、のホムンクルス!!』


「そうか」


知らないと答えただけなのに、何故か笑顔になる第一魔王。


『罪人は死ね。。魔王となっても例外では無い!!』


またか、と思った時には変化が起きていた。


肌が少し白くなり、胸が膨らみ、喉仏が引っ込む。

顔が少し小顔になり、髪が長く伸びる。

長く伸びた髪は徐々に金髪になり、眼も青くなる。


変化、否、変身したが、今度は慣れたのか気絶しなかった。


「その姿は………、エリィ・ヘレンズか? なるほ『どぉ!!』」


「なるほど」の「ど」と言うタイミングでエリィが剣を抜き斬りかかる。

数十メートルあった距離を一瞬で詰めた攻撃は手のひらに展開した魔法障壁で防がれ、反対の手を使い零距離魔法で反撃。

その零距離魔法はんげきも超反応と言うべき速度で避けた。


一連の流れは魔王も予想済みで、避けた先に間髪入れずに魔法攻撃。

魔王が使った攻撃魔法はどういう物か分からないが、エリィは魔法を斬りそのままの勢いで斬ろうとしたので、後ろに大きく下がること魔王が回避する。


同じ視界、同じ脳を使用してるから何とか分かるが、とても同じことが出来るとは思えない様な一瞬の攻防。

それさえ様子見と言うように、二人同時に呪文を唱え始めた。


「罪人には死、民には平穏、私には救い。

叶えよ、叶えよ、我の手で、≪死者の意思エリィ・ヘレンズ≫」


「円、球、防、防げ≪球状結界≫。

始まりの呪い、終わりの絶望、それが私、≪第一魔王シルヴィア≫」


エリィは特殊な自己強化魔法を使い。

魔王は観戦者フィリアに防御魔法をかけ、その後で省略呪文で特殊な強化魔法を使った。


ほぼ同時に自己強化魔法が終わり、第二ラウンドが始まる。


「≪星屑スターダスト≫」


「≪鎖の槍チェインスピア≫」


エリィが手を右から左に振ると小さな光の玉が無数に展開され、その隙を狙う様に槍の穂先を付けた鎖が地面から生え、エリィを狙う。


100本前後と思われる≪鎖の槍チェインスピア≫は隙を晒したエリィに襲い掛かる。

基本的に回避して、回避できないのを剣で防ぎ、それでも防げないのは黒い影が剣の影を使い防ぐ。


「数が過ぎだろ!」


エリィは魔王の特殊な強化魔法を、手数が増える物と分析。

避けて防いでる間に、遅れて≪星屑スターダスト≫で現れた光の玉が爆発、煙で姿を隠したエリィは爆音で気付かれない様にジャンプして煙の上から魔王を狙う。


上空で投げ飛ばしたツーハンデッドソードは雷のような音と共に魔王に命中し、左肩を抉り取った。


「上か」


「≪戻れマグネ≫」


空中で戻した剣を受け取り、魔法で簡易的な足場を作成。

そこに魔法の光弾がマシンガンの様に乱射され、避けるために足場を破壊して移動。


むちゃな体勢で落ちた為に、全身に軽い打撲と擦り傷が出来た。


「……舐めてるのか?」


鎖の槍チェインスピア≫の鎖は消えずに残っていて、落ちた場所も含めて鎖の結界になっている。

鎖の結界に紛れて、蛇の様な鎖がエリィの足に巻きつくが気にせずに言葉を続ける。


「殺すつもりでやってるんだ、何で殺そうとしない?」


「お前を知る為に調べたのに、殺したら意味がないだろう?」


魔王の言葉に納得した訳じゃないが、殺せないなら意味が無い。

言葉でこそ言わなかったがエリィの返事は分かり易い変化となって表れた。


髪が徐々に短くなり、色がどんどん茶色に。

肌は少し黒くなり、喉仏が出てきて、胸は萎む。

瞳も青から、茶に戻っていく。


エリィからレイクに主導権が戻ったが「こんな状況で戻すな!」と言いたい。


体が自分の意思で動くことを確認すると、改めて魔王を見た。

魔王の抉れり取られた左肩には血や肉が無く、代わりに土の中身が見える。


「あれは第一魔王の姿を模したゴーレム。本体は別の場所にいる」


「そこの彼女セレスの言う通り、この体は遠隔操作してるゴーレムだ。

左腕は動かないが痛みは無い。

俺は死なないからと言って、無抵抗に倒されるつもりも無い。

仮の体それでもるか?」


エリィの様な戦闘なんて出来ないので首を振って答えると


「そうか、それは結構! これでやっと話ができるな!


まずは自己紹介しよう。

現在、人の世界で序列第一位と呼ばれる最古の魔王。

名をトウヤ・オオイケと言い、兄弟おまえと同じ、転生者のホムンクルスだ!」

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