第9話 最悪の遭遇

『ホムンクルスは見つかれば即指名手配される』


ホムンクルス、300年以上前に研究されていた人型人工生命体。

主な使用用途は、性的な人形とか生体兵器として研究されてた。

それも一体のホムンクルスが第一魔王を倒してしまったことで状況は変わる。


ホムンクルスには自我があり、基本的に製作者の言うことは聞くが、時には反抗したりもする。

それは兵器として重大な欠点として知られていたが、魔王を倒す個体が出るようになってメリットよりデメリットの方が目につくようなり製造や研究が禁止された。


元から製造されてたホムンクルスは国の管理下に入り、禁を破って製造されたホムンクルスは手に負えなくなる前に殺処分される。


『生きてた頃は何とも思わない法だったが、ホムンクルスの立場になると如何に

理不尽か分かるな』


ぜぇ、はー、ぜぇ、はー。


「私達は生まれを選べないのに、生まれたのが罪だと言わんばかりの理不尽な法です」


ぜぇ、はー、ぜぇ、はー。


『理由を知ってれば仕方ない気もするが、超人(生前の私)も含め生体兵器扱いの奴は縛りが多すぎる』


「レイクは超人って聞いたことある?」


ぜぇ、はー、ぜぇ、はー、ぜぇ、はー、ぜぇ、ぜぇ。


『話す余裕はないから聞いてやるな。

簡単に説明すると、人の枠から外れたようなバケモノを超人って呼んでんだ。

主が目指す、Sランク冒険者も超人枠だぞ』


「Aランクは超人候補、Bランクは一般で一流冒険者として扱われる。

暫くはBランクを目指そう?」


フルマラソンの選手が走るような速度で10分ほど走った俺は、そのまま動けなくなり倒れてしまう。


『身体強化なしでも、もう少し続かないか?』


「鍛えてないから、これが普通」


『身体強化なんて、体動かすついでに覚えるもんだろ?』


魔法を使うための魔力の操作は体を動かす内に覚える。

それがこの世界の住人の常識で、幼い頃から大なり小なり魔法を使えるのが普通だった。


それは異世界から来た俺には当てはまらないのだが、教える側のエリィはそれ以外の方法を知らなかったので試した。

結果として、この方法はダメだと言うことが分かったが、どうしたら魔法を覚えるのかエリィには分からなくなる。


「普通に理論を教えてから実技でいいのでは?」


セレスが教える方法は魔法学校で一般的な方法だ。


『そんなのは知らん! 私は私の教わった方法を試すだけだ!!』


そんな風に言い争う二人(?)を無視して魔力と言う曖昧な物を意識して探すと、体温とは違う温かくて見えない気体の様な何かが体の中にあるのを見つける。

次に体中を流れる血の様に全身に見えない何かを巡らすのをイメージしてみた。

…………何となくで上手くいくほど甘いモノではないらしい。


『主も試しにやったようだが、うまく行かないか。

セレス派の様な、理論から教えた方がうまく行くタイプか?』


「それなら私が教える。いいですか、まず………」


それから暫くフィリアを追いかけるのを止めて、最低限の身体強化魔法を使えるようにセレスに指導される。

普通に行くよりは、遠回りでも身体強化魔法を覚えてから追った方が早いらしいが、その間にフィリアがとんでもないことになっているとは想像もしていなかった。



◇ ◇ ◇



私の名前はフィリア・ロージェン。


とある国の国境近くの村で生まれ、戦争孤児になりかけた所を傭兵団「藪の蛇」に拾われ育てられた。

拾った前団長曰く、「いい娼婦になりそう」と言われ引き取られたらしい。


父も母も覚えてないぐらい幼い私を引き取った前団長はロリコンだったらしいが、私が幼い頃に戦死して現団長のジーネに交代。

私も団長交代で扱いが変わり、雑用から戦士見習いになり、水蒸気式銃スチームガンナーとして戦場にでるようになった。


西へ東へ、戦場があれば向かい、戦果を上げ、次に向かう。

そんな生活を10年ぐらい続けただろうか?

「藪の蛇」のメンバーも古参以外は入れ代わり、私も古参と言われるほど馴染んでいた。

そんな時にオーカム帝国とガスタ王国の戦争に参加しないかと手紙で打診される。


珍しく、団長のジーネが「嫌な予感がする」とかボヤいていたが、手頃な戦場は

そこ以外無く、気乗りしないままオーカム帝国側で参戦。


奇襲戦法を得意とした傭兵団「藪の蛇」は、敵補給部隊襲撃任務に付き、そこで運悪く護衛の超人候補複数に遭遇。

彼等と戦い、任務は成功したものの傭兵団としては壊滅的被害を受けてしまう。


戦力として数えられない状態になったため、報酬分の僅かな資金を貰って戦線から離脱。

心機一転するための資金稼ぎをする為に、盗賊業に身を落とすことになる。


だが、運が無いときは何をやっても駄目なのか始めの一回で指名手配され、二回目で超人(エリィ・ヘレンズ)に遭遇し、私以外は全員皆殺しにされた。


「盗賊をやってたんだ、殺されても仕方ねーけど……。

目の前で団長(盗賊の頭)を殺した奴と一緒に冒険者やれる訳ねーだろ!」


彼等の秘密を知った私は脅される形で共に行動してたが、逃げられそうだったので逃げた。


逃げる時に一工夫したから少しは時間が稼げるだろう。

それでも道なりに進んでいればいずホムンクルス達やつらに見つかる。

そこで、ある程度道なりに進み周りを見て誰も見ていないのを確認した後に、

道を逸れて道無き道を進む。

途中で獣道のようなものを見つけ、道無き道よりは楽な道だろうと安易にその道を進むことにしたのが間違いだった。


「人?」


獣道を進んで行くと、薄汚れた軽装の冒険者らしき人が複数見えた。

それだけなら良かったのだが、彼らは全員何かしらの荷物を持っている。


「あ」


荷物に穴が開いてたのか、無理矢理詰めたせいでこぼれたのか、一人荷物を落とし拾おうとした瞬間目が合ってしまった。

落とした物は、恐らく指輪が取れず腕ごと持ってきたのだろう。

本当に運が無い、私は盗賊達に見つかり追われることになった。


「盗賊をサポートしてた私が盗賊に追われるとか、因果応報ってやつ?」


手持ちのスチームガンは大型の物で対人戦闘には向かない。

基本的な使い方は、大型生物に使ったり、対軍の援護射撃とかが主だ。


「距離さえ離せば使えなく無いんだけど」


身体強化魔法を使っても距離は然程変わらず。

もって3分ぐらいしか維持できない身体強化魔法で最初から勝負を賭けた方がマシだったかと後悔したが、状況は変わらずに悪化する。


敵の盗賊は100~150人規模の盗賊団で、私が逃げる方向に居た者が通信の魔道具で連絡を受けて足止めし、盗賊達の精鋭が追いかけてくる。


彼等は人数を生かし連絡を取り合うことで連携するのが得意なようで、私を弱らせてから捕まえる寸法らしいが、甘く見んな!

走りながら水蒸気式銃スチームガンに弾を込め、細い木を掴んでUターンし撃つ。


撃ち出す弾丸は、あのホムンクルスに使った散弾の近距離型。

多少狙いが甘かろうが確実に当たるそれは木の裏に居ないものを追跡不能にした。


「足は止まるし、減ったのは8人中3人かぁ……」


銃口から蒸気が出てたので二発目を装填しようとするが、当たらずに勢いを止めずに追い付いた盗賊が剣で攻撃をしてくるので水蒸気式銃スチームガンを置いて避けた。


「ここまでだ嬢ちゃん。降伏するなら命だけは助けてやるよ?」


慰めものになるのは決定かー、多分、薬づけにされて廃人コースかなぁ?


「降伏なんて無いでしょ? 体が死ぬか、心が死ぬだけ」


懐から出すのは、火薬式の手榴弾。


「これ分かる? 糞高いので有名な火薬式の手榴弾。

このピンを、こうやって抜いたら数秒後大爆発!」


せめて死ぬなら自らの意思で死にたい。

それが悪かったのだろう。


私や盗賊精鋭の索敵範囲外から、矢の様に接近する人が一人。

ピンを抜いて爆発するまでの短い時間で私まで近づき、抵抗も許さぬ素早さで

手榴弾を奪って上に投げ飛ばした。


星の雨スターレイン


爆発に混じって光りの矢が雨のように降り、盗賊がバタバタと倒れていく。

手榴弾の爆発に魔法を被せ、相殺と攻撃を同時に行う技量は、割り込んできた奴が化け物のような強さをしてることが分かる。


「糞、嫌なこと思い出させやがって!!」


私を睨みつける男。

突然、乱入してきた男は上級魔法で見える範囲の盗賊を全滅させる。

私は、今運が無いと分かっていたが、これは無い。


「嘘でしょ?」


そう言ってしまうのも仕方ないと思う。


国に四・五人しか居ないと言われている化け物、超人。

それを圧倒できる、化け物の中の化け物が居る。


魔王、一人で国すら滅ぼす悪夢の象徴。


世界に6人しか居ない魔王。


その中で最も古い魔王が目の前に居る。


「お前……、俺のことは知ってるな?

ホムンクルス……、否、レイクとセレスについて知ってる全てを答えろ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る