第8話 港町イーマンス
ああ、困った、困った、とても困った!
思わず困ったって連呼したくなるぐらい困ってる。
「ぐす、……うぇぇ」
死んで目が覚めたら、見知らぬ女性が背中に引っ付いて困っている。
何で生きてるのか?
盗賊はどうなったのか?
何故彼女は俺の背中で泣いているのか?
いつも色々と教えてくれた亡霊は、目が覚めてから反応が無い。
死ぬ前に降り始めた雨は本格的に降り始め、幌馬車を森の木の下に移動し幌の中で雨宿りしているが、中の広くない場所で俺と泣いてる彼女に距離を取るようにセレスが端っこで座ってる。
『聞こえる?』
困っていると亡霊のような声が聞こえた。
亡霊の声と似たような特徴があるが、違う声だ。
『フィリア…、その後ろの女性は盗賊の仲間。
……仲間のために無理矢理協力してただけだから私が保護した』
周りをよく見ればセレスが顔だけ此方に向けていた。
『気づかれるから返事は返さなくていい。
フィリアが泣いてるのは仲間が死んだから、暫くそのままにしてあげて』
そう言ってセレスは奥の毛布を被って寝始めた。
事情は分かったが、それでも気まずい状態は変わらない。
そんな気まずい状態が二時間ぐらい続いたのだが、後ろの彼女は徐々に泣き疲れ今は眠っている。
動けるようになったのはいいが、外は台風でも来ているのか風が強く雨も止むどころか強くなってる気がする。
これは俺も寝るべきか?と思ったところで
『待たせたな、やっと喋れる程度には回復した』
と亡霊の反応が返ってくる。
亡霊なら声に出さずに喋れるので、今の状況を分かる限り説明した。
『本当に覚えてないのか?』
死んでる間のことは覚えていない。
『死んじゃいない、ホムンクルスは特殊食糧さえ食べてればある程度は自己再生できる。無意識だったが、斬られた傷を治したのは主がやったんだぞ』
言われれば確かに最後に「ふざけるな!!」と言った記憶がある。
亡霊が言うには、その後のことも覚えてていいはずだが、初めて主導権交代したからか俺の本来の仕様と違うことが起きたらしい。
『そうか…、それなら今さらだが、自己紹介しよう。
私の名前は、エリィ・ヘレンズ、主の製作に使われた遺体の持ち主であり、一時は英雄とまで言われた帝国の元騎士である』
今までエリィが自分の名を名乗らなかったのは、無実の罪で処刑され悪い意味で
有名だったため、初めての主導権交代の際に悪印象を植え付けないためだ。
『元は英雄と呼ばれた私の肉体から作られたホムンクルス、主の才能は私と同じか私以上にあるはずだ』
今回の盗賊撃退は、エリィの性能テストという面もあり、エリィ一人で撃退する予定だった。
だけど相手が罪人ということもあり、恐怖を煽ってしまった。
逃げる者は出るし、目撃者は残せないしで、セレスに手伝ってもらったと言う訳だ。
その際に、襲ってきたフェリスの仲間をセレスが殺してしまったと説明される。
「ミスで殺したなら、この状況は変だろ?」
『頭で分かっても感情で納得できない、そういう話だ』
話しは分かった。
既に終わったことだし、落ち着くまで待つしかない。
その間は幌の中で嵐が過ぎるのを待つばかりと思ったが、仮眠から起きたセレスが御者を名乗り出て嵐の中、移動を再開した。
◇ ◇ ◇
嵐の中、一日程の時間道なりに進んだ。
道の先に見えるのは古く堅牢そうな壁に守られた町が見えてくる。
こちら側からだと壁しか見えないが、あれが目指してた港町イーマンスだ。
門の所で手続きをして町に入るが、昨日から続く雨で通りに人は居ない。
「まずは馬車を預けて、それから宿に向かう」
馬小屋付きの宿屋は意外と少ないし、門で紹介された宿屋も馬車を止める場所はない。
「馬車の所有権が見つかるまで宿で待機するのか?」
盗賊に殺された馬車の所有権は現在俺達にある。
商業ギルドでプレートナンバーを確認してもらい遺族に渡すまでの間だけだが、俺達は管理する義務がある。
まぁ、馬小屋に預ければ殆ど終わる程度の楽な義務だが、謝礼金が貰えるためやっていた方がいい。
「宿に連絡が来るから、部屋を取ってれば大丈夫」
「そういうもんか」
幌馬車ごと馬小屋で預かってもらい、俺達三人とも雨に降られながら紹介された宿がある場所を探す。
幸い小降りになってきたので、それほど濡れずに見つけることができた。
宿は三人分だと二人部屋と一人部屋しか無い。
どうやって部屋割を決めるかセレスと俺で揉めたが、あまり知らない相手と宿を共にするフィリアを気遣い一人部屋にし、俺とセレスは二人部屋になった。
食事の間に明日の予定を決めた後で各部屋に別れ一夜を過ごしたのだが、問題が
起きたのは次の日の朝、フィリアが居なくなったと気づいたときだ。
「朝起こしに行ったときには既にもぬけの殻?」
「うん、宿の人に聞いたら朝市だろうって言うけど」
今日は昨日までと違い、晴天なので朝市に行っても不思議ではないけど。
「昨日の今日だし、俺達と一緒にいるのが嫌だったって言うんだろ?」
「そうだよ」
『最初に脅しておいたが、やっぱり意味は無かったか』
出会いは最悪に近いし、離れられるなら離れるよな。
盗賊達の首は換金してないが、盗賊達が持っていたお金はフィリアに渡していたので、この町を離れるぐらいは簡単だ。
「ここは港町だし、船に乗られたなら追い付けないんじゃないか?」
「昨日までの嵐で海は荒れてた。
落ち着いてきたとしても、まだ様子見だし、船員も起きたばかりのはず」
『私も同意見だ』
「なら馬車か?」
最初の停留所で聞き込みをしたら幸いにも見て覚えてる人が居た。
「美人だったからな、何となく覚えてたんだが、出発時刻だけ聞いたら待たずに出ちまったぞ」
今は午前9時頃で、最初の出発時刻が10時(この世界も24時間表記)。
恐らく船の方も同じ頃に出発するとエリィが言うので、先に幾つかある壁門で門兵に確認すると、似た特徴の女性が歩きで北東方向に向かっていると言う話を聞けた。
「宿を出たのが朝市の時間(6時~8時)だろ、道なりに進んでも追い付くには結構かかるよな?」
「大丈夫、走れば一時間ぐらいで追い付く」
普通の人間は一時間も走れないが、この世界では身体強化の魔法を使えば簡単に
出来たりする。
「いや、俺は一時間も走れないぞ」
『特に魔法の訓練とかしてねーしな、素の能力で一時間走りっぱなしは無理………、とか考えてるんじゃねーんだよ!
生き切れて、動けなくなるまで走れ!!』
「習うより慣れろですか、その方針嫌いじゃないです」
『考えなくても嫌だって言うのは分かるが、逃がすと不味いんだぞ?
フィリアが私達の正体をホムンクルスって言うと指名手配されるからな!』
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