第7話 エリィ・ヘレンズ

「そうだ、無実の罪を期せられ処刑された元英雄、エリィ・ヘレンズ。

それが私だ。」


「生き返ったとでも言うのか?」


「安心しろ、生き返ってなどいない。

死後、ホムンクルスの材料として使われたぐらいだ」


「……まさか、戦闘用ホムンクルス!?」


「へー、知ってるのか?」


約300年前、初代デドラ・ヴォイニッチの時代までは戦闘用含めホムンクルスを作るのは違法では無かった。

違法では無かったが、研究費などの問題で少数しか作られていない。

その少数作られた内の一体、戦闘用に作られたホムンクルスが第一魔王を倒し、

魔王に取り込まれた。


それ以降、禁術として禁止されてたはずだが、デドラⅡ世は禁を破り一体のホムンクルスを作った。

そのホムンクルスこそが、レイク・カスケーズである。


「第一魔王がホムンクルスなのは有名だろうが!?」


「お前たちのような、傭兵崩れまで知ってるとは思わなかっただけだ」


盗賊の時間稼ぎが功を奏したのか、よろよろと立ちあがる影が一人。


「あぁあああ、痛ぇ、糞、痛ぇが、ようやく動けるようになった」


「頭、どうします?」


「対超人陣形で行くぞ」


目の前で作戦会議してる盗賊を、余裕を崩さずニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら黙って聞いてるエリィ。


「頭、それは!!」


「分かってるんだろ?

こいつの話が本当かどうか知らねぇが、少なくとも超人級のバケモノだ。

命を捨てろ、仲間を生かすために戦え、傭兵の意地ってのを見せてやれ!!」


「「「「「「「おう!!」」」」」」」


「作戦決まったか?」


ゆっくりとエリィに顔を向ける盗賊の頭。

笑みを浮かべるのと同時に、指の魔道具をエリィに向けるが、指がエリィを指す前に居合のように手首を斬り落とす。


「む」


手首を落とした手ごたえが通常とは違ったので、注意して斬った断面を見ると金属が見えた。


「義手」


盗賊の頭の笑みが深くなると、斬った義手が光に包まれていく。

それを間髪入れずに見極めたエリィは、義手が腰より下に落ちる前に剣の腹で受け止め、そのまま思いっきり上に放り投げた。


義手が斬り落とされたと同時に、四方から盗賊が斬りかかってくる。


これを2mほどジャンプして躱したエリィは、手を挙げて水平にした剣に防御用の

魔法陣を展開し、義手の爆発を防いだ。

だが、爆発の音に紛れて銃撃、否、砲撃と言うほどの大口径の弾を受けて吹き飛ばされる。


「追撃!!」


頭の号令と共に左手に収納されたボーガンをスイッチ一つで展開。

毒が塗ってあるボーガン用の矢がセットされ、手動のハンドルを回すことでボーガンが連射される。

当たることを重視した速度と連射性だったが、ボーガンを取り出す時の遅れで避けられてしまった。


「あー、鈍ってる。鈍ってるわ」


エリィが咄嗟にキャッチしたペットボトルサイズ(500ml)の弾丸を投げ捨てる。


「伏兵にしてやられたが、バランス崩して土に着くとは情けないと思うだろ?」


盗賊の頭は質問に答えず、遠くに居る伏兵にハンドサインで指示を出す。


「最初に逃げた盗賊は伏兵を知らなかった」


陣形を変え、後ろに居た者が前に、前に居た者は護衛するような配置になる。


「あれは脅し用の数合わせか? それとも」


「それともの方だな、捕縛!!」


聞こえない様に小声で呪文を唱えてた4人の魔法使いが、魔道具の力も借りてエリィの周りに光の牢獄を完成させる。


「そうか、逃亡用の身代わりか。それで次はどうする?」


余裕たっぷりにワザと捕まったエリィ。

頭の顔まで手を上げ、エリィに向かって手首を下げた。

それを合図に、伏兵が散弾を発射した。


「甘い」


エリィは飛ぶ斬撃を放って、牢獄ごと拡散する前の散弾を斬って迎撃した。

散弾と言っても、一つ一つの鉄の弾は熊殺し用の弾と変わらない大きさを持つ。

迎撃したことでエリィを中心に左右に分かれ、より広範囲に拡散した弾は包囲してた盗賊達に当たった。


幸か不幸か、盗賊の大部分は死ななかったために痛みで地獄を見ている。


「これで対超人陣形は維持できそうにないな。

情報を吐けば楽にするが、どうする?」


殺されると分かっているのに降参する馬鹿はいない。

最後の特攻とばかりに頭以外の盗賊が襲ってきたが、それらの一人一人の首を刎ね、最後に残った盗賊の頭に尋ねる。


「あと戦えるのはお前だけだが、どうする?」


「…………何が知りたい」


「何処から来たのか、何処と戦い負けたのか、今後どうするつもりだったのか、まずはこの三点だ」


盗賊の頭は意外に素直に応じ情報を喋り、答えてる間に首を回収し、切断面を焼いて血止めの処理をするエリィ。

そこへ、セレスが逃げた盗賊の首を持って伏兵だった者を連れてくると、絶望した表情になった。


「女か」


手と口を布で縛られ荷物の様に運ばれ転がされる。


「お前ら、そいつはどうするつもりだ?」


思わず盗賊の頭が聞いてしまった。


「そりゃ、殺すだろ。盗賊は死罪だ、死罪じゃなくても罪人は全て罰する」


冤罪で処刑されたエリィは、罪人に対して過激になっている。

それは投降した盗賊を捕まえずに殺してることからも分かるだろう。


「待ってくれ、そいつは、そいつだけは犯罪行為はしてねぇ!

そいつだけは助けてくれねぇか?」


「私は撃たれたぞ?」


「仲間を守ろうとしただけだ!

そいつは、戦争孤児で生きてくために俺達に付いてくしか無かったんだよ!!」


「働ける年齢になったら冒険者にでもなれば良かっただろ?」


「何もできないガキの冒険者なんて荷物持ちがいいところだ!

いざって時は見捨てられるし、給金を誤魔化される場合も多い。

傭兵おれたちの技術を教えた後で別れる予定だったんだ。」


「傭兵の技術……」


エリィはそこで伏兵の武器を見る。


対大型生物用の水蒸気式銃スチームガン

威力は凄いが、同時に反動も凄く、大きいため取り回しも難しい。

基本的な使い方は、隠れてからの狙撃なために腕が問われる武器だ。


「適正があったのがコレか?」


「そうだ」


「初期投資が必要で厄介な武器だな」


弾も只じゃない。

外せば余計に金は減る御陰で、ある程度稼ぎがいい依頼を受けないと毎回赤字になってしまう。

そのため、冒険者にしては珍しく、初期投資しないといけない職業になる。


「奪った金を初期の資金として送り出すつもりだったか?」


「…………そうだ」


どうするかと思い、転がってる伏兵の女を見ると、こちらを睨みつけてきた。


「こいつの名前は?」


「フィリアだ」


脅すつもりで、口を塞いでる布だけをツーハンデッドソードで斬った。

文字通り、目の前ギリギリで大剣が通り過ぎたので顔が青くなるフィリア。


「話が聞きたい。

お前は本当に盗賊行為やその他の犯罪行為はしていないのか?」


しゃがんで、顔を掴み、目を合わせて尋ねる。


「戦争が犯罪じゃないってんなら、してねー……、です。」


「……………お前は、私がホムンクルスと知った。

生かしておくとしても私と共に冒険者になるしかないが、それでいいか?」


「団長から…、冒険者になれって言われてっから…、それはいいけど。」


「お前は、仲間を殺した私を恨んでいるか?」


「………、何とも言えねー、…です。 戦争で殺し殺されるのは当たり前、今回は殺される側だっただけって感じだ……、です。」


「慣れないなら敬語はいい。 それじゃ、こいつを殺しても文句は無いな?」


「団長は……、恩人だ。 俺をここまで育ててくれた。

出来るなら殺さないで……、ください。 お願いします。」


土下座して嘆願するフィリア。


「悪いがそれは……、ぐ、!?」


剣を振り上げた所で、エリィが常時全身に掛けてた身体強化魔法が切れた。

力も出ずに剣を地面に刺し、杖代わりにすると変化が出てくる。


髪が徐々に短くなり、

色がどんどん茶色になっていく。

肌は少し黒くなり、

喉仏が出てきて、

胸は萎んでいく。

瞳も青から茶に戻っていく。


他にも変化はあるが、鎧で隠れて見えない。

変化を終え、エリィからレイクに姿が戻っていた。


レイクの方はエリィに体の主導権を握られた後に意識が無くなったため、そのまま倒れる様に眠り込む。


「唐突に元に戻りましたね」


セレスが思わず呟くが、盗賊の頭はチャンスだと思ったのか隠し持っていた短刀でレイクを殺しに襲い掛かった。


「させない、亡霊の刃ファントムエッジ


レイクを守るため、大鎌で盗賊の頭の首を狙うセレス。

盗賊の頭もそれは読んでたので短刀で受け流せる様に構えたのだが、構えた短刀が大鎌に接触したと思った瞬間、何もない様に短刀をすり抜ける。

油断せずに、その一瞬を見逃さなかった盗賊の頭、だが予想外の事態に一瞬思考が固まり、そのまま首を刎ねられた。


「だんちょーーー!!!」

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