第6話 亡霊の正体

『死にたくなかったら、体を寄越せ!!』


「ふざけるな!!」


喉を斬られ本来喋れないはずなのに、無意識にホムンクルスの自己再生を使って

叫んだ。

それが最後の気力だったのか、あるじの意識は途切れ倒れる。


『まさかあのような反応をするとは……、言葉を間違えたか?』


許可は貰えなかったが、この緊急時なら私が体を動かす分には問題はない。

体の主導権を握ったと同時に、ホムンクルスの体に変化が起きる。


肌が少し白くなり、

胸が膨らみ、

喉仏が引っ込み、

顔が少し小顔になり、

髪が長く伸びる。

長く伸びた髪は徐々に金髪になり、眼が青くなる。

斬られた傷は完全に塞がり、血も止まる。


他にも変化が見られるが、鎧を着てるため目立たない

変化を終えたそれは紛れも無く女性であり、性別も女性に変わっている。


変化が終わり立ち上がると、盗賊達は慌ててもう一度構え直した。


「どういうことだ?」


思わず盗賊が呟くのも無理は無いだろう。

どう見ても致命傷に見えた一撃、変化した見た目、変化した性別、雰囲気で分かるほど変化した実力。

殺した男の装備をしてることで、余計混乱する。


「エリィ・ヘレンズ?」


静まった中、一人の盗賊が呟いた声が周りに聞こえた。


「確かに肖像画に似てるが…」

「いやいや、あれは確か死んだんじゃ?」

「そもそも歳が違ぇ、あれは40過ぎのババアのはずだ」


一瞬、女が動いたと思ったらババア呼ばわりした盗賊の首が飛び、血しぶきが舞っていた。


「誰がババアだ、まだ享年46歳だ」


色々ツッコミどころはあるが、混乱した盗賊達は誰も答えない。

盗賊達の誰もが気づかないほどの速度で振られた剣、それは目の前の敵が手に負えないような強さを持ってるが分かる。

変化した姿は20~24歳ぐらいの女性だが、間違る程に似ているエリィ・ヘレンズは

46歳でギロチンにかけられ死亡した。

それでも他人の空似そらにとは思えない強さと姿。


ここで感のいい盗賊のリーダーらしき人は気づいてしまった。


「まさか……、第七魔王!?」


「それは違」


言葉の途中で変身した女が銃撃されるが、自動展開した魔法の防壁に防がれる。


「うぜぇ!!」


今度は盗賊達にも辛うじて動きは見えたが、それでもフルスイングで剣を投げたとは思えない速度だった。

剣は正確に銃撃してきた相手に飛び、砲弾が当たったような音と土煙が舞った。


「人が話してるのに銃撃なんてするな!

お前もそう思うだろ、感のいい盗賊の頭さん?」


剣を手放したことでチャンスと思った盗賊が二人、前後同時に襲いかかる。

それを両手を使って手づかみで前後二本の剣を受け止めるとノータイムで一人蹴り飛ばし、もう一人は剣の向きを逆に変えて突き刺す。


「弾補充ご苦労」


蹴った時に敵が手放した剣を手に持ち、刺した剣も抜いた。

新たに増えた二本の剣で残った水蒸気式銃使いスチームガンナーに剣を投げ仕留める。


「二本とも命中だ、即死はしてないだろうが、どうする盗賊?」


囲まれ隙だらけのはずなのに手が出せない。

実力差は明らかであり、女は余裕の笑みを浮かべている。


「降参だ、降参するから命は助けてくれ」


勝ち目はないと判断して盗賊の頭らしき人が手を挙げ降参してきた。


「降参するなら武器を下げろ」


そう言って盗賊のリーダーらしき人に近づく。

要求通りに剣を地面に放り投げ、頭の盗賊以外は皆一歩下がる。


「お前が盗賊の頭でいいんだな?」


「そうだ、俺が」


言葉は女が盗賊の頭を殴り飛ばすことで途切れ、そこから痛みで叫び声が上がる。


仮にも荒事になれてるリーダーが殴られた程度で叫び声なんて上げない。

何をした!?と思った盗賊達も女の手の上にある物を見た瞬間、恐怖で一歩下がる。

女の手の平の上には眼球が血にまみれた状態で置かれている。

盗賊の頭に対する返答は、素手で眼球引き抜き見せつけ、恐怖を煽るものだった。


「罪人は死ね、全て死ね、一人残らず殺してやる。

ああ、お前(盗賊のリーダー)だけは情報を喋ってから死ね。 戻れマグネ


腕輪の魔道具を起動して、登録された剣を手元に引き寄せる。

それは砲弾のような速度で戻ってきたが難なくキャッチして、戻ってくる勢いの

まま周りを囲んでた盗賊達の一人を胴ごと真っ二つに両断した。


「嘘だろ……?」


「お前たちは今ここで死ぬんだよ。 安心してくれ、一人も逃がさないから」


その言葉でバラバラに逃げ出す盗賊と、逆に武器を構える盗賊の二つに別れる。


「逃げる奴は数合わせ程度の実力、逃げない者は傭兵団のメンバーでいいのか?」


武器の構え方や魔力などから逃げる者と逃げない者を判断した。


「さぁな、それよりこの辺りにはアンタの様な超人、もしくは超人候補と呼ばれる化け物は居なかったはずなんだが、アンタは一体何なんだ?」


「答えてもいいが」


逃げてる中には魔法を使ってるのか、明らかに他の者より速いのもいる。


「少し面倒だな、いつまでも死んだ振りしてないで手伝ってくれ」


「面倒なのは貴女のせいです」


体の埃を払いながら立ち上がるセレス。

銃撃された跡はあるが、動きを見る限り影響は無さそうだ。


「セレスは逃げてるのを頼む」


「囲まれて抜け出せませんが?」


周りを見て一番実力がありそうな盗賊を見る。


「大丈夫、通してくれるさ、そうだろ?」


狙撃されたのに平気そうにしてるセレスに驚きつつも、二人同時に相手をするより各個撃破したいと考えた盗賊は無言で道を開けてくれた。


「ほら、大丈夫だ。足の速い奴優先で仕留めてくれ」


「分かりました。貴女もご武運を」


セレスは身体強化魔法を使い、一歩で80cmほど二歩で1.3mと加速して、最終的には一歩で4mほどの走りで駆けて行った。


「さて、これで時間は気にしなくていいな。

で、何の話だっけ? 私は何かって話だっけ?」


「そうだ、アンタのような実力者の話なんて無かったぞ」


「誰かが言ってただろ、エリィ・ヘレンズって、私は間違いなくエリィ・ヘレンズ本人だ」


「馬鹿な、アレは間違いなく処刑されて死んだはずだ!!」


「そうだ、無実の罪を期せられ処刑された元英雄、エリィ・ヘレンズ。

それが私だ!」

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