第3話 終末の境界線

意味が分からない。


俺を異世界召喚した老人は死んだ。

何を俺にさせようとしてたのか分からないが、死んで残した命令も

「死ぬな、生きろ」だし、本当に意味が分からない。


目の前には若干透けた老人が居る。

奥のベットで横たわってる老人と同じ人物であり、既に死んるはずの人物だ。


「立体映像……、つまりこれは録画なのか?」


最初は部屋が暗くて分からなかったが、この透けた体などを見るにSFとかある立体映像なのだろう。

仕組みは分からないが、俺が死んだ後の未来の技術か魔法とかの技術だろうか?

これが死んだ老人の立体映像ということは、恐らくこれは……、自殺の遺言書だ。


「その通りじゃ。

これは録画された立体映像であり、同時に儂の遺言でもある」


「正確に言いますと、相手の反応を読み取り数パターンの反応を返す高性能な立体映像です」


セレスが補足してくれた。


「儂の状況は分かってくれたようじゃの。

これは夏至(儀式が行われた日)の一週間前に記録した映像じゃ」


それから立体映像の老人が語った内容は信じられないような話しだった。


曰く、俺は異世界アメイジアに転生した。

曰く、転生したのは人造人間のホムンクルス。

曰く、セレスは俺のつがいとして作ったので、文字通り好きにしていい。


など、またしても意味が分からない話しだ。


「ここが貴方の知る世界と違うのは、外を見れば分かると思います」


だけど語った内容は、後で見ることになるに比べたら大したことは無い。


「私はデドラ・ヴォイニッチⅡ世様の訃報を知らせるために、医者を呼んで死亡確認しなければなりません。

一緒に外に出て医者を呼ぶついでに、この町を見て回りますか?」


俺は自分に起きた出来事や、死んだ老人が語った内容を頭の中で整理するために断った。


「そうですか、分かりました。

それでしたらアドバイスになるか分かりませんが一つだけ、ホムンクルスについてお教えします」


そこでセレスが手首を見せた。


「マジか!」


手首を斬ってそれほど時間が経ってないのに、切り傷が綺麗に無くなっている。


「他にも、つがいとして作られたのも本当ですし、試しますか?

只の雑用でも、性的なことでも、猟奇的なことでも、言われれば今後に支障がない範囲で何でもやりましょう」


「………………冗談でも、そういう話しは止めたほうがいい」


一瞬、魔が差しそうになるが何とか堪える。


「それなら敬語は止めて……、笑ってくれ」


「これでいいです……、いいの?」


無表情なセレスが微笑んだ。


それだけで氷が溶け、冬から春になったかのような気がした。

多分、俺はこの時に彼女の笑顔に惚れてしまったんだろう。


『……このヘタレめ、こんな感覚も共有するのかよ』


亡霊も俺に憑いてるだけあり、同じ感覚を味わってるらしい。

セレスは俺に様子に首をかしげたが、そんな動作すら可愛く見える。


「これで良かった?」


頷いて返事をすると、


「それじゃ医者を呼んでくるね。」


そう言って満足そうにして階段を降りていくので慌てて呼び止める。


「その間、俺は何してればいい?」


眠ってる様な感じとはいえ、死体と二人っきりは避けたかった。


「んー、それなら1階にある多目的ホールで体を動かして不具合が無いか確かめてみて」


新しくホムンクルスの体になったので、不具合があるか確かめたいのだとか。


――1階玄関ホール――


食堂でセレスに直ぐ食べられる軽食を用意してもらい、出ていくのを見送った。


「ふぅ」


一人になり心に余裕が出てきて、今居る建物を観察した結果、ここは貴族の屋敷と思うほど大きな家だということは分った。

廊下や部屋には絨毯が敷かれており、玄関ホールでは大きなシャンデリア、正面には大きな額縁がある。


そこまではいいが、何故か正面の額縁に飾ってるのは人物画でもなく風景画でもなく、ただの地図というのが雰囲気に合っておらず、嫌でも注目してしまう。


『アレは、この世界のだ』


地図に描かれていた世界地図には、しか無かった。


中世ヨーロッパのように新大陸が見つかって無いのではない。

三日月状(?)に配置された大陸は、この世界に大陸が一つしか無いことを俺は


それはで2億5000万年前頃に存在したとされる「超大陸パンゲア」、その超大陸の予想地図が目の前にある世界地図と

普通の大陸ではない、大陸移動説で提言されてた全ての大陸が一つになった大陸、それが超大陸。


それ自体は大したことは無い。

環境的には、大陸中央部に砂漠が多いと推測される程度。


問題は同時期に起きただ。

隕石で恐竜が絶滅したのが最も有名な大絶滅だが、その時絶滅したのは全ての生物種の70%程度しか無い。

これは意外なことに、生物史で5回起きたとされる大絶滅の中では一番被害が少ない。


では逆に、最も被害の多かった、地球史上最大の大絶滅は何か?


それはペルム紀末(2億5000万年前頃)に起こった大絶滅だ。

超大陸が出来たことによる特殊な大陸プレート配置が原因で、スーパープルームと呼ばれる超巨大マグマ溜まりが地上に噴き出たことが原因と言われている。


鋭い者は気付いたかもしれないが、超大陸パンゲアとペルム紀末の大絶滅は同じ

25000だ。

異世界アメイジアが超大陸パンゲアと同じ大陸の形をしているなら、プレート配置も同じで、大絶滅が起きる。


先ほどから何か嫌な予感がしたのは、これが原因か。

予想だが、亡霊の考えも俺に伝わるんじゃないか?


『…………………………。』


言えないのか、言うつもりが無いのか、どちらにしろ俺はそれに備えなければならない。

全ての生物種で95%ぐらいが絶滅したとされている大絶滅に……。


「『死ぬな。生きろ。』と命じられたのは…」


『これを知って死なれたら意味がないからだ』


つがいの意味は、もしかして…」


『精神がすり潰されないようにするためだ』


最悪だ。

俺はこれから起こるか分からないペルム紀末の大絶滅に挑まなければならない。


………いや、違う。

ここは地球ではなく、異世界アメイジアだ。

ペルム紀末の大絶滅も過去のことだし言い方も変えるべきだ。


それが起こった時点で人類にとって終わり、……つまり

これに専門用語のP-Tを文字って、終末の境界……。

いや、P-T境界の前の頭文字は時代の終わり(ペルム紀:Permian period)と始まり(三畳紀:Triassic period)指し、境界は大絶滅の前後を意味するから……。

大絶滅の始まりは境界だろう!


訂正する、俺は大絶滅に至る大災害、に挑まなければならない。

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