第2話 亡霊と召喚者

父親は分からない

母親も分からない

兄弟は存在するのか?


俺はどうして此処に居る?


日本人だと思っているが、見た目が日本人離れしてる。

俺は本当に日本人なのだろうか?


『元日本人だ。 今の見た目は、転生した時に私の影響を受けたせいだ』


また声がした。

転生した…、つまり俺は死んだのか?

死んでに生まれ変わったのか?


……分からない、分からないが、思い出せないものは仕方ない。

時間が経てば思い出すかもしれないし、下手に前世を思い出して後悔するより良いのかもしれない。


分からないことは考えても仕方ないと問題を棚上げにして、声の主を探すが後ろにいる彼女以外に人がいる様子はない。


「この部屋に、他のは居ません」


彼女の声に振り向く。

振り向いて彼女を見たことで、ふと声で位置を特定出来たことに気づく。


『声で位置を探ろうとしても無駄だ』


また声が聞こえたが、音が反響してる訳でも無いのに場所の特定が出来ない。


『私は、お前の中に居る』


声が聞こえたと思ったら右手が勝手に動き、鏡に映る俺の頭を指す。


「ゆ、幽霊!?」


驚いて後ろに下がる俺に笑い声が聞こえる。


『あはははははは、いい反応だ。 驚かした甲斐があるな』


俺は笑っていないが、鏡の中の俺が笑ったような錯覚を感じ、それを否定するように怒った顔をした。


『そう怒るな、幽霊と言うのはそう間違った表現じゃない。

正確にいうのなら、亡霊というところだ』


勝手に動いた手の力が抜け、腕が下がる。


「何が違うんだよ」


『過去に存在したが、現在は居ない。それが亡霊、つまり私のことだ』


「意味が分かんねーよ」


『なら簡単に言うと、宿主とセレスにだけ声が聞こえる幽霊のような者が亡霊とでも思ってくれればいい』


「……まさか、セレスって彼女の名前か?」


後ろに居る彼女に振り返ると、無表情に俺を眺めていた。


『反応するのそこか?

セレスって名前は、確かに目の前に居る女の名前だ。

だが、お前が気にしなきゃいけないのは宿主って言葉だろ?

長々と説明するつもりは無いから答えを言うとだ、宿主は現在名無しのお前のことだ』


あー、……出来れば知りたくなかった情報をありがとう。

やっぱり記憶も名前も無いのは、今の状況と関係がある訳ね。


『一心同体だからな。

なんとなくだが、何を考えてるのかってことは分かってるぞ』


実感が無いが、亡霊に憑かれたらしい。


『悪いことばかりじゃないぞ、むしろ私が憑いて良いことの方が多い』


そのまま利点を説明しようとした亡霊は、セレスから続きを止められる。


「それは後にしてください。

………貴方が目を覚まし服を着たら、デドラ様の寝室に来るように言われてます」


『そうか、宿主殿も素直に付いていくと行くといい。

デドラが宿主殿の現状を説明してくれるはずだ』


やっと説明があるらしい、それはいいのだけど。


「宿主殿は止めてくれ」


『ダメか? 他には主、ご主人様、マスター、○○様などがあるが、デドラの話が終わってから相談でいいな』


碌な候補が無かった。

除霊もしくは、声が聞こえなくなる方法は有るのだろうか?


『無いぞ』


「……本当に考えてることが分かるんだな」


『そうだ、表層の考えを何となく分かる程度だがな。

それより付いて行かないとセレスが困ってるぞ』


いつの間にか俯いてた顔を上げ、部屋の入り口を見ると、此方を待ってるセレスの姿が見えた。

慌てて近づくと、ドアを開け先に歩いていく。


地下を抜け、廊下を歩き、階段を上り、ドアを三つ通り過ぎたところに目的の寝室があった。

セレスがドアを開けた瞬間、暫く留守にした家に帰ってきた時のような独特の臭いが部屋から漂ってくる。


俺達を待っていたように、骨と皮だけしか無いような顔をした、老人が立っていた。


「はじめまして、儂はデドラ・ヴォイニッチⅡ世と名乗ってる。

ただの魔術師だ」


外は明るいのに、部屋の窓を閉め切っていて薄暗い。

それなのに、妙にハッキリと老人の姿が見えた。


「君が記憶が無いのは知ってる。

そのようにしたのが儂じゃからな」


「なんだと!?」


記憶について問い詰めようと一歩前に出ると、セレスに止められる。


「今は問い詰めずに話を聞いてください」


セレスに向けた視線をデドラ・ヴォイニッチⅡ世に向けると、視線に反応したように続きを話し始める。


「そう取り乱さんでくれ。 儂はお主に現状を話したいだけじゃ」


その言葉と共に、閉めていた窓とカーテンが自動で開く。

部屋の奥には天蓋てんがい付きベッドあり、中が見えない様に閉まっている。

そのベットの手前にはテーブルと椅子があった。

椅子があるのに、何故か立ったまま話を続けるデドラ・ヴォイニッチⅡ世。


「まず、記憶の無いお主には仮の名として、レイク・カスケーズの名を送ろう。

この名が気に入らんなら、自分で別の名を考えるといい」


レイク・カスケーズ、意味は分からないが否定するほど拒否感はないし、その名前でいいかな。


「お主を、この世界に呼んだのは他でもない。

……『死ぬな、生きろ!』

この最初で最後の命令を実行して欲しいからじゃ」


命令を聞いた瞬間、脳と心臓が熱くなるような感覚を覚えた。

気になり左手で頭を右手で胸を押さえ、確認するが何とも無い。


ベットの天蓋てんがいが開く音が聞こえ、顔を向けると老人が死んだように、いや、老人は死んで安らかに眠っている。


服装が変わってるが、死者の正体はデドラ・ヴォイニッチⅡ世。

今話してる本人であり、見間違いなどでは無い。


『今立ってるデドラは立体映像だ』


意味が分からない。

俺を呼び出した召喚者が既に

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