第19話「矜持」
教科書をなぞるだけの無機質な授業を、泰は心から厭悪していた。
生徒たちのために、より良い授業をしようという殊勝な気持ちがあるわけではない。創設から日が浅い
もとより人との関わりや、そもそも世の中そのものに対してある種の冷淡さを抱き続けてきた泰にとって、それらはどうでもよいことだった。
泰が重んじていたのは、他者ではなく自分自身だった。
上智大学から一橋大学の大学院という、大多数の人々が
スタンダードで面白味に欠ける授業であっても、生徒のやる気を引き出したり、または進学実績という形で反映できているのであれば良しとした。しかし、生徒たちの授業態度やここ数年の実績を見るにおいて、いら立ちを覚えながら嘆息することしかできなかった。
フラスコグラスのアイスティーを、泰はストレートのままで飲む。
少量のミルクとガムシロップが添えられていたが、どちらも使用を見送った。グラスの形状から察するに、入れてかき混ぜるのには手間がかかりそうな気がしたのである。また、先ほど直之と一緒にケーキを食べたところだったので、目下のところは甘さを求めてはいなかった。
秀陽に限らず現代の学校における暗記主体の学習スタイルを、泰は好ましからぬ傾向ととらえていた。
学生のころより、自分自身が何においても比較的要領よくこなせてしまったがゆえの傲慢かもしれない、という思いもないではなかった。しかし、価値観が多様化した現代社会の中で、受動的な暗記学習しかできない人々は世の中から取り残されてしまうだろうという、大げさとはいえ正論ともいえる考えを、幼いころから漠然と抱いていたのである。
その考えは確かに真っ当ではあるものの、どんな授業形態にしようが、そもそもまともに勉強に取り組まんとする生徒がクラス内に三分の一いるかどうかも怪しいのが現状だった。そんな状況では真面目にやるのがばかばかしく思えてしまい、結局松本などという片田舎に行ったこと自体があやまちであったと、泰はアイスティーをちびちびと飲みながら思いめぐらす。
「先天的労働者の溜まり場か」
店主にも女性店員にも聞こえないほどのごく小さな声で、泰はそう口にした。
無気力に
せっかくの長期休暇だというのにくだらないことを考えてしまったと後悔し、店に入る前にしまっていたiPodを鞄から取り出してイヤフォンをつける。プロペラも悪くないがより退廃的な趣の曲に浸りたくなり、
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