第11話「想像」

 昼食を満喫し、来た道を戻り、先ほどの分岐点で今度は左側へ進み、サンモール商店街を歩いた。

 

 商店街は浪漫的だ。特に、こういう繁盛している商店街が、直之は好きだった。

 カフェやバーガーショップやコンビニエンスストアや服屋や眼鏡屋や整体屋など、ジャンルも歴史も営業方針も様々な店舗が鱗次櫛比りんじしっぴとして立ち並ぶ光景は、どこか滑稽なようで、それでいて愉しくもあった。

 

 右や左に適当に視線を投じて、目に入った店の店員として、そこで自分が働いている姿を想像してみる。

 人見知りが顕著で、相当に時間をかけなければかみしもを脱いで語らえない自分が、立派に接客をしている姿は往々にして冗談のようにうつるのだが、たまにそれなりにさまになっている風付ふうつきが脳裏にうかぶと――還暦手前ぐらいの温容を湛えた店主と、数名のアルバイトがやっているあんみつ屋などは、不遜にも違和感少なに想像できた――、その瞬間だけ別の自分を創造できたような気がして、直之はおもしろく感じるものだった。


「いつもんとこ?」

 泰の問いかけをもって、ひとときの想像をやめた。

「ほかにどこかあれば、違うとこでも」

「いや、特にないかな」

 返答を省略し、直之は軽く点頭てんとうする。バーガーショップの店員が、店横のスペイスで期間限定の人形焼き(ハローキティの形をしたもの)を販売している。


優里ゆりさんは、今日は仕事?」

「うん、夜勤明け。家で寝てるんじゃないかな」

「そっかそっか、大変だよなあ。夜勤だけじゃなくて、日によっては朝からの勤務もあるわけでしょ? 生活リズム乱れちゃいそうだけど」

 夜勤をやっていることに対する反応は良くも悪くもだいたいこういうものだなと、直之は思う。


「夜型だから、むしろずっと日勤よりは楽みたいだよ。お金もいいしね」

「へぇー、そういうものか」

 そうはいっても、介護現場の夜勤というのは自分が想像するよりも過酷なものなのだろうと、泰は内心で首をすくめた。


 行きつけの喫茶店『アーベル』は四階建てのビルの二階で、エスカレーターを上って左手にある。さらに上のフロアにはカプセルホテルやサウナなどがあり、古めかしさと怪しさが一体となった特有の空気が流れている。明るさがにじみ出たサンモール商店街の中に存在することが不自然な感じさえするため、このビルに喫茶店が入っていることを知らない人も多いだろう。

 

「お好きな席どうぞ」

 自動ドアをぬけると、右奥にいた男性店員が形式的な挨拶をした。

 

 ホテルの中のラウンジカフェのように広々としており、また適度な明るさが供給された店内は外側の薄暗い空間からは想像しにくく、訪れた人に健全な好奇心をもたらす。


 四、五人掛けの矩形のテーブル席や、窓際に位置する三人掛けの丸テーブル席など、いずれもゆったりとした十分な広さがある。店員が変にフレンドリーな感じでないこともこの店の内装に合致していて悪くないと、直之は初めて来たときから感じていた。

 土曜日ということでそれなりに客が入っていたが、窓際左端の気に入りの席が空いていた。

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