第14話 追いついた罪

 うとうとしかけて、カクリとクビが落ちそうになった瞬間、ハッとして目が覚めた。


「おや、目が覚めたかの?」


 誰かの声がして顔を上げる。そこはどうやら石で出来た牢の中だった。


 石壁に半身を立て掛けられ、脚を投げ出して寝ていた様だ。


 すぐそばに鉄の格子があり、自分が囚人なのだと理解した。


 いつかこの様な事になるのではないかと思っていた。それが今なのだと。


 突然の事でも、そうなっても当たり前という思いがあるため、そこまで驚かなかった。


 だが、いつの間に自分はここに連れて来られたのだろうか・・・。


 まだ、どこか頭の一部がぼんやりとしているようだった。


 声のする方にはローブを身に着けフードを被った二人の人物がいた。そのローブは灰色で、神官が身に着ける紋様入りのローブだった。


 ああ、やはり、私は神殿から『聖女の瞳』を盗んだ罪で神殿からの追手に捕まったのだ。そう思った。


 それから後には他の悪事の手伝いを色々してきた。仕方がないのだ。だが、自分のせいで家族に害が及んだらどうしようか・・・。心臓がバクバクとし始めた。


 二人居たうちの一人が、相手の神官に頭を下げて去って行った。


 残った一人が歩いて傍までやって来た。


「さて、『ドニケイ』、いや、誰だかは分からぬが、ドニケイと呼ばれていた者よ。私は一応、大神官と呼ばれている者じゃが・・・」


 その言葉にハッと息を飲み、石の床に膝を付き身を折り曲げ頭を擦り付ける。


「申し訳ございませんでした。申し訳ございませんでした」


 他に言葉が浮かばなかった。石の上にポタポタと雫が跡をつける。


「そなたが寝ている間に、ザドールの神官の面通しは済んだ。『ドニケイ』で間違いない様だが、相違があれば言いなさい。」


「申し訳ございません、本当に申し訳ございませんでした!」


 何が何だか分からないまま、断罪の場に自分がいるのだという事だけ理解していた。


「全て私の一存でした事でございます。どうか、どうか、家族には・・・」


「ほう、家族がおるのか?何処から来たのだ?」


 大神官様は、静かな声のまま、私を責めるよりも、まずそう聞かれたのだった。


 その後、私は格子の中と外で、大神官様に長い話をすることになった。


 そうして、話を終えると、大神官様はおっしゃった。


「そうじゃの、まずはジェノス、そなたの家族の事はこちらで調べよう。分かり次第今の状況を教えよう」


「ありがとうございます。本当にありがとうございます。私はいかような罰でもお受けいたします」


 その頃になると、私もだいぶ落ち着きをとりもどしていた。


「そうじゃな。そなたは自分の罪は償わなくてはならない。軽くはないぞ」


「はい、よく分かっております」


「では・・・ヴァルモントル公爵閣下、そういう事で宜しいですかな?」


 ヴァルモントル公爵閣下!?突然大神官様がそういわれたので驚いた。するとすぐに答えが返った。


「大神官。良いぞ。その男の事は神殿にまかせる」


 低く耳に心地よい声がそう返って来た。思わず顔を上げて見てしまい直ぐに平身低頭する。


 いつの間にかそこには長身の美しい男性が立っていた。間違いなく、神の色を纏う方がいらっしゃったのだ。


「ありがとうございます。では、後々の事は宜しくお願い致します」


「ああ、分かった」





          ※      ※      ※





「お嬢様、お手伝いありがとうございました」


 フィルグレットにそう言われ、先程の事を考える。


「本当にあんな演技で上手く行くとは思わなかった。アカイノが上手にやってくれたからだね」


「ええ、アカイノはとても賢いので、上手に演技をしてくれました」


「ぎゅぴい~」


 褒められて恥ずかしそうだ。


 さっきはお肉を泥棒した役だった。違和感なく出来る役どころだったね。


 アカイノはカウンターの上にステーキを焼いて切り分けたお肉をお皿に盛ってもらい、行儀よく皿の中から一切れずつ肉を嘴で啄んでは美味しそうに食べている。


「ふふふ、ご褒美のお肉が効いたのかな?すっごい上手に演技するから、あの人もすっかり騙されてたね。でもなんか良心がいたんじゃった」


「ぎゅぴぎゅぴ」


「そうですね、本当に『聖女の瞳』を神殿から持ち出した犯人なのかと思う様な、おっとりした感じの素直で騙されやすい方でしたね」


「そうなんだよね、ちょっと足をすべらせた演技したら、あの人頭から池に落ちちゃったから慌てちゃった」


「でも、おおよその計画通り、お茶を飲ませて眠って頂く事ができましたので、良かったです」


「うん。良かった。あれなら後はザクが目立たず魔法陣で北部地域から連れ出してくれたから、だれも気が付いていなかったし」


「旦那様からお話を頂いた時は少し心配だったのですが、ずっと旦那様が隠れてついていて下さったので安心でしたね」


「えへへ、ちょっと緊張したけどね。それにしても、魔法師団であの人をだいぶ前から監視していたなんて知らなかったな」


「極秘任務だったようですよ。捕まった方も犯人というよりも下っ端だったようですが、あの方は神殿に引き渡す必要があったので、この様な形を取られたようです」


「なんか、きっとあの人には事情があったんだろうけど、してはいけない事をしたんだから、罪は償わなくちゃね。それより、ここでやめられたんだから良かったとおもわなきゃ」


「ええ、お嬢様の仰る通りです。まあ、とりあえずはお疲れ様でした。旦那様から、お嬢様に「今日は夕食を一緒に摂ろう」とお伝えするように言付かっております。早めにお帰りになられるのでしょう」


「わーい。嬉しい」


 先程ザクは、すぐに眠ってしまった男の人を連れて行ってしまったので、ちゃんと話ができなかった。


「では、屋敷に帰りましょう」


「はーい。じゃあね、アカイノ。今日は手伝ってくれてありがとう」


「ぎゅぴっ」


 おだやかに過ぎて行く様に見えても、水面下で色々な事が動いているのだと思った。


 今日の事、帰ってからザクと色々話をしよう。


 






 

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