第12話 第六師団(ダイロク)

 魔法師団 第6師団 通称 ダイロク

ダイロクは、モノ造り隊と言われている。特殊な師団である。


 ここの仕事が、好きでなければ務まらない。魔力を細心の注意を払って制御し編める器用さと、根気、賢さが無いとまず無理である。


 1〜4師団ならば、とにかく魔力が強くて攻撃出来て協調性があれば入れる可能性が有るが第6師団は脳筋(バカ)では入れないと言うことになる。


 1〜5師団の求めに応じて、魔道具を作る。

 それ以外にも、国で決定した魔道具の開発、城内や王都内の主要部に移転の魔法陣とトラップを張り巡らせ、国境と王城を大型の転移門で繋ぐなど、かなりの機密も扱っている。(国境警備は王家と辺境伯の両軍より警備されている、その為に毎年、合同練習がある)


 エルメンティアに散らばる各領地の領主、領民の状態や、天気、土地などの状態も把握出来るように、『道具』が撒かれているという噂もある。


 ダイロクの隊服の色は深い紫。過去、北の離宮の左翼を破壊した為(故意では無い、モノ造りの為)今は魔力で緩衝材を作った防護壁に包まれた離宮の地下がダイロクの基地になっている。


 とても静かな人が多いので、皆あまり分かっていないが、一番危険な人達かも知れない。




   ※  ※  ※




「ねえ、ちょっとそこの君」


 食堂で声をかけられ振り向く。


 北の離宮には、一階の奥に食堂がある。


 私は、同期のヘレナンディアス・キュビック 、ジュディーアン・ダントロー と3人で昼食を済ませて、食後の休憩に北離宮庭園中庭のベンチにでも行こうかと話している所だった。腹ごなしの散歩だ。


 そこには銀髪に薄い水色の瞳を持つ、背の高い紫の隊服の男性が立って居た。自分より幾らか年上そうに見える。



 ヘレナとジュディーは、何かを察知して一歩後退している。

 少しの間に、仲良くなり、直ぐにお互いを愛称で呼ぶようになった。


 私がすかさず一歩下がると、2人は同時にまた一歩下がった。

 うむ、素晴らしい反射神経だ。


「私は、セレッソ・フィサリス。少し、君と話しがしたい」


 フィサリスって辺境伯の御子息だよね?

 確か……誰かがダイロクのセレッソは、稀に見る魔力付与(エンチャント)の天才とか言ってたような……


 辺境伯の所には王女が何度も降嫁している。彼は王族の特色であるとも言える繊細な美貌を持っていた。


「どういうお話しになのか、少しお聞きしてからどうするか決めても良いですか?」


 私はちゃんと猫を被っている。かなり大きな猫だ。


「ああ、すまない、一応ハデス師団長には先程話しを通した。後で話しが有ると思う。つい、顔を見たらどうしても先に声が掛けたくなった。……浄化関係のモノ造りに協力して貰えないかと思ったんだ。私だけでは、思うように行かなくて、君が協力してくれたら、或いは上手くいく様な気がしたので」


 なんとなくだが、悪い人ではなさそうだ、きちんと私に分かるように順序だてて話をしてくれるし、丁寧な感じの人だなと思った。


「……では、ハデス師団長に確認を取り、私の一存では決められないので、父と話をして決めさせて頂きます」


「宜しく頼む」


 一応、父とは言ったが、一緒に住んでいるのはザクなので、帰ってからまずザクにその話しをした。


「もともとは王家の血による魔力の澱の対策の為に、だろうな。フィサリスは王家の血が濃いので早逝者が多い。それに開発出来れば様々な用途があり、全ての浄化師の負担も軽減される。フィーの負担が減る話しだ、悪くはないが、それなりの準備も必要だな。何よりフィーが怪我でもしたら大変だ。あとは、フィーがどうしたいかだ」


 ザクは心配性な所がある。顔には出さないけど、いつも私の体調や怪我に気を配っているのが伺えるのだ。だから私も心配をかけないように自己管理には気を使っている。


「あのね、私、浄化の魔道具をあの人が作れるのだったら協力したいと思う」


「そうか」

 

 私では作れないけど、私が協力して、あの人がその魔道具を作れるのならそうしたい。もし、私に何かあったら、ザクを浄化出来る者が居なくなる事がとても不安だったのだ。


 するとザクは、私に二つの装身具を渡して来た。


「これは昔、私が子供の頃に兄上から渡された物だが、かなり強力な防御の装身具だ。身に着けている者に対して害意を持ち、魔力や暴力を振るうと、全てがその者に還る。また不可抗力の場合は相殺される。古(いにしえ)の魔導具だ」


 カチリと音が鳴り、首の後ろで金のチョーカーの金具が留められた。


「………」

 そんな魔道具があるのかと、驚きをかくせない。


「そして、この指輪は全ての毒を無に返す、その時はこの紅い石の光が点滅する、まあ、魔除けだと思えばよい」


 赤い石の埋められた金のリングは指に通されると、私の指のサイズにスルリと縮まった。


 なんか、怖いんですけど!そこまでする必要あるんですか?


「でも、ザクは着けていなくていいの?」


「私には、もう必要ないので使っていない。フィーが着けていれば良い」


「…うん、ありがとう」


 まあ、気をつけるに越した事は無いし…。

 これを着けていれば、ザクが安心ならばその方が良いだろう。



  ※  ※  ※



「君、なんか凄いの身に付けてるね」


 次にセレッソ・フィサリスに会った時の第一声はそれだった。

 ザクに付けられた装身具から見えない何かを感じたようだ。


 セレッソは特別に北離宮の地上階に研究室を持っていて、それは3階に有った。前もって要請の有った決められた日時に訪れると、直ぐに研究室に通される。


 部屋は続き部屋で、リビング、研究室、休眠室&シャワー室となっているそうだ。研究室の中は整然としていて、隅にソファーセットとテーブルまで置いてあり、寛げる雰囲気だった。


 ソファーに座る様に促され、腰掛けると、テーブルの上に多種類の魔宝石が並べられたトレイが置かれた。トレイだけでなく、魔法石の入った箱が沢山積まれている。


 魔法石とは、道具としての魔石よりもずっと能力が高く、宝石としての価値もあり、希少だ。そして大変高価である。


「私は、王家の呪いとも言われる『魔力の澱』をなんとかしたいとずっと子供の頃から思っていた。フィサリスは王家の血が濃い。今まで多くの身内が早世している。君は逆にティーザー家の『穢れを祓う瞳』を持つ者だ。魔力の澱を消す事が出来る唯一の者。そのせいでその瞳を持つ者は、王家の為に力を使わされて短命だった。もしも、魔力の澱を消す魔道具を作る事が出来れば、私にも君にも良い結果となると思う。だから、協力をお願いする」


 セレッソ・フィサリスの瞳には真摯な心が見えるような気がした。


「私も、その魔道具が出来ればとても嬉しい。私の魔力が貴方の力になるなら、是非協力させて下さい」

 

 彼の視線を受け止めて、私は答えた。


「では始めよう。どの様に進めるか説明させて貰うと、君と相性の良い魔法石を選んで貰う。それから、私の中にある魔力の澱を君に浄化してもらい、その浄化した時の情報を、君の選んだ魔法石に移す。まず、そこにある魔法石を手に取ってみてくれないか?」


 彼の説明を聞き、私はそこにある魔法石を手にした。

 どれを触ったのか分からなくならないように、順番に触れた。

 触れた物は除いて、次にという感じで進めて行く。気になった魔法石は横のトレイによけて置くようにした。


 暖かい、冷たい、柔らかい、硬い、トゲトゲしている、ツルツルしている、ザラザラしている、引っ張られる、弾かれる、引き込まれる、落ちていく、浮上する………………


 石を握る度、様々な感じを受ける……これは好き、これは嫌い、これは普通。その感覚だけで石を分けて行く。


 セレッソは、窓際に寄りかかり、そんな私を黙って見ていた。


 時々、休憩を挟み、長時間に渡って続けられた。




 ………ああ、これだコレは、コレは私と同じ……引きも弾きもしない、触れても触れているのが分からないほど、私が溶けて中に混じっているのか…又はその逆なのか、わからない程に同化する。


 いつの間にか目を閉じ、握り込んでいた手を開くと、そこには私の瞳と同じ色の石の中に、金の針の様な結晶が入り込んだ魔宝石が有った。




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