第11話 魔法師団

 エルメンティアには国の誇る、魔法師団がある。


 この魔法師団の元となる部隊が出来たのは、120年以上前のエバダ帝国軍との戦いの時だった。


 当時の王、ルチアーノ王の、ただ一人の弟君であるフレデリク殿下が作られたのだ。フレデリク殿下とは今のヴァルモントル公爵閣下である。


 その部隊を連れて出陣し、カイナハタンとの国境で戦ったのだ。


 その時、完膚なきまでに帝国軍を叩き潰し、エルメンティア王国に勝利をもたらした英雄だ。

 そして、そのまま部隊は残され、現在の形へと変わって行った。


 第1〜4師団は攻撃部隊

 第5師団は浄化・治癒部隊

 第6師団は魔道具等を作るモノづくり部隊


 そして、この魔法師団の総師団長は、今現在、ヴァルモントル公爵閣下であった。



    ※  ※  ※



 私は16才で、エルメンティア宮廷魔法師団、第5師団に入団した。


 ザクと出会ってから3年が経過していた。


 この魔法師団に入る事が出来る程の魔力を、私が持って居ると初めてザクに言われた時から、魔法師団に入る事が私の目標になった。


 ザクの浄化師として傍に居る事が出来るけど、それだけではなくもっと自分で出来る何かを見つけ、そして、ザクの傍に居ても良いと思える自分になりたいと思ったのだ。


 だから入団試験を受けて、その後合格発表を貰い、入団出来る事が決まった時はとても嬉しかった。


 あの時は、ザクも、紫苑城の皆も一緒に家族の様に喜んでくれた。




 入団式の日は、朝からとても緊張したけど、でもしっかり朝食を食べてから出かけた。王城までは紫苑城から馬車を使った。今度から出仕は馬車で行く事になる。


 出かける前にザクと二人、離れのソファーに座ってお互いの魔力を指先から循環させた。これは私の落ち着くおまじないの様なものかも知れない。


「よく似合うな」

 第五師団の隊服を身に着けた私を見て、目を細めてザクがそう言った。


「えへへ、ありがとう。行って来ます」


「ああ、ではまた向こうで会おう」


「うん、じゃあね」


 向こうでは、というと王城ではという事だ。でも一番上の総師団長と、新団員の私では接点がないから、目線を合わす事すらないんじゃないかと思うけど、一応そう返事をした。総師団長としてのザクを見る事が出来るなんて、とても凄い事だ。


 よし、私頑張った。うん。


 1〜6師団の新団員は合計で24名居て、第5師団は24名中5名居た。


 第5師団は、治癒師と浄化師の師団だ。1〜4師団は言うなれば攻撃部隊になる。


 魔法師団の王城の拠点は、北の離宮と呼ばれる。壮麗な白の離宮で芝のグリーンと後ろに背負う王城の森とのコントラストが美しい。


 宮廷魔法使いと言うことで、強い魔力持ちばかりでやはり貴族だけの世界だ。

 だが、魔法師団は実力でしか認められない、甘ちゃんには到底付いて行けない場所なので、生半可な気持ちで入団すると大変な目にあう。


 そして、魔法師団内で、家の身分の上下を振りかざす事は御法度。

 全ては、経験と実力で決まる、階級制度なのだ。

 年に一度、査定が行われる。



 入団式前に、受け付けを済ませ、ホールの指定された椅子に掛けていると、あちこちから視線を感じる。私の庶民的茶髪(いっぱんぴーぽー)の髪は、結構目立つ。何故って、薄い髪色の子ばかりの中に、濃いのが居れば、そりゃ目立つでしょ。もう、全員貴族の子供となれば、金銀キラキラなワケよ。


 だから私みたいなのが居れば、毛色が変わっているからめちゃくちゃ目立つ。


 それで、新団員の名前読み上げで名前呼ばれて“ハイ”って返事した時、皆にガン見されてた気するわ。





 それにしても、今回の入団式には57年振りに、ヴァルモントル総師団長、通称『長(おさ)』が参加されると聞き、関係ない貴族連中までもが何とか入団式に出れないものかと画策したようだが、バッサリ斬られたそうだ。


 入団式には、王と皇太子、宮廷魔法師団関係者のみ、となっていて、家族も参加出来ない決まりだ。


 一般に言われている総師団長についての情報は、『傾国』と言われる程の麗人だと言う事。

 エルメンティア王国では、王族の絵姿とかは不敬になるので出回ったりしない。


 現国王の3代前と言ったらそれなりの年齢になるが、王族の中でも例を見ない程の強い魔力持ちで、先祖返りと言われている。


 そして、入団式当日、総師団長が壇上にあがり、挨拶される間、皆、釘付け。師団長達もいつもはフード越しでしか話しをした事がない『長』の素顔を拝めて感激で倒れそうだった。


 ローブのフードを背におろし新団員歓迎の挨拶をされる総師団長は、その辺の美女なんかでは全く太刀打ち出来ない程の麗人だった。


 もちろん私は、総師団長とザクが同一人物だと理解している。



 その後、師団毎に分かれて、顔合わせだ。指定された剣(つるぎ)の間で丸テーブルを囲み、5人で師団長を待つ中、私以外の4人が皆して私を見ている。なんの罰ゲームですか?


「えーと、私はグリンデル・モルト、キール地方にあるモルト伯爵家の3男だ。宜しく」

 そんな中、始めに挨拶したのが彼。顔立ちが優しい系で、取っ付きやすそう。

鈍い色の金髪に灰青色の瞳だ。


「私は、ヘレナンディアス・ギュビック。ギュビック男爵家の長女だ。宜しく」

 一見、男子に見える彼女は、金髪直毛の髪の毛を一つに括り、青い瞳をしている。女性にしては長身で、スラリとしていてとてもカッコよかった。


「私は、ジュディーアン・ダントロー。ダントロー伯爵家の次女です。宜しく。」

 彼女は、ちょっと恥ずかしそうに、俯きながら言った。ピンクブロンドに大きなヘーゼルの瞳をした可愛い子だ。


「私は、エルドレッド・ワイス・テイラー。テイラー公爵家の次男だ。宜しく。」

 テイラー公爵って、現王弟だったはず。王族の血が入ってるとこうも綺麗になるのかねって、容姿で、プラチナブロンドに青い瞳だった。


 何となく、右回りでやって来た自己紹介、最後の私も皆んなを見回しながら、同じように言った。


「私は、フィアラジェント・ラナ・ティーザー。ティーザー侯爵家の5女です。宜しく。」


「…凄い、本物の『穢れを祓う瞳』だ」

 エルドレッドが覗き込んで来る。


「本当に、いらっしゃるなんて、お会いできて幸せです」

 とジュディーアン。そんなに頬染めて喜んでくれてありがとう。なんだかな。


「吸い込まれそうなほど、美しい瞳だな」

 とグリンデル。瞳がな。


「濃い髪色というのも、艶が美しくてよいね」

王子様みたいなヘレナンディアスに言われて照れる。


 そうこうしてるウチに、師団長のクワイス・ハデスがやって来て、もう一度自己紹介した後に、第5師団の新団員の研修目的で、王都の神殿、病院、墓地等の恒例の治癒・浄化師遠征行事があると言われた。


 先輩団員達と2月かけて順次実施して行くそうだ。

ちょっと緊張するけど、魔法師団の中で仕事が出来る喜びもあった。


 私だけでなく、どの部隊の新団員も厳しい審査を通り抜けて入団出来た喜びが大きいだろう。でも、今まで貴族の子弟として育ち、誰かに世話をされるのが当たり前の生活から一変、出仕すれば身の回りの事は全て自分でやり、その責任を自分で持たなければならない生活に変わる。


 魔法師団には城内に寮もあるので、そこに入る者も多かった。


 そして長い一日が終わり、迎の馬車に乗り、屋敷に帰るとほっとした。

明日からがんばろう。


 











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 エルドレッド・ワイス・テイラー の 日記

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 今日は、宮廷魔法師団の入団式だった。

 私は攻撃魔法は不得意で、治癒師として第5に配属になったが、子供の頃からの憧れであった魔法師団の一員になれた事は、純粋に嬉しい。


 そして、ヴァルモントル公爵が総師団長として顔出しされ、初めて拝顔出来た事も、僥倖(ぎょうこう)だった。


 陛下や、父上も、王族一同、皆、ヴァルモントル公爵を敬愛しており、誰も、全く、頭が上がらない存在なのは致し方ない事だと思う。貴族連中も然り。


 そして、フィアラジェント嬢に会えた、『穢れを祓う瞳』とは、別名『ティーザーの魅了眼』とも言われ、特に王族の血が濃く、魔力の大きな者ににとっては特別な瞳だ。惹かれずにはいられない。本当に、天使のように清廉で可憐な令嬢だった。今後、一緒に同僚として働ける事は、なんという幸運だろう。


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