第9話 フィアラとアカイノ
「アカイノ、あんたはさっきの仲間の所に行っていいよ、多分さ、さっきのあんたを迎えにきたんじゃないのかな、私は火山の麓で待ってる人が居るから、そこに行かなきゃ」
そういう私の言葉に子首をかしげて聞き入るアカイノが可愛い。
「でもまあ、方向は同じだからね、一緒に行くか」
「ぎゅぴっ!」
それからアカイノと二人連れ?で行く森の中は楽しかった。
蛇とかトカゲや昆虫はアカイノがペロッと食べちゃうし、美味しそうな果物はアカイノが跳んで取ってくれる。
美味しそうでも食べられない物は分かるみたい。
地図を見ると、この先にキャンプ場だって。
到着してちょっと感動!
ツリーハウスだよ、楽しそう。そろそろ日も暮れそうだし、ここで休むとしよう。
「ねえアカイノ、今日はここで休むとしようか、どのツリーハウスが良いか選んでくれる?」
「ぎゅぎゅぴっ!」
あちこち跳び回り、アカイノが決めてくれたツリーハウスは木も大きくて、太い樹の幹に巻きつく様な上り階段がちゃんと付いて居て、上にある小屋も、大きくて立派だった。
ハウスの下には木のテーブルセットも付いている。
「アカイノは賢いなあ、凄くいいねこのツリーハウス、よし、ここで決まり!」
シルクが持たせてくれたリュックにはもちろんザクによる魔法の収納機能が付いて居て、そんなモン入るわきゃねーだろ、と思わせるような大きな様々な物が出てくる。
欲しいものを呟けば、リュックの側に出てくる仕様だ。
たぶん、城の納戸とでも繋いで有るのだろう。私にはそんな細かい魔法を練る事は出来ないけど、ザクは凄いね。
しまう時には◯◯収納と呟けば良い。私の声に反応する様に作られている。
日が落ちた時の為に、ランタンを先に用意した。
キャンプ場の片隅に作られている竈の場所を見つけた。竈がいくつか並んでいる。炭も置いてあった。
きれいにされた金属の網も竈に立て掛けておいてあり、ここでドワーフのおじさんに貰った肉を焼いて食べようと思い付く。
リュックの中から野菜やソーセージ等を取り出して準備する。
アカイノは何処かに飛んで行ったと思うと、美味しそうな甘い香りの果物を幾つか取って来てくれた。
炭を竈の中に組んで置いた。炭の扱いは家族と住んで居た頃に、伯母さんに教えて貰って、よく使っていたので大丈夫だ。
「アカイノ、炭に火を点けてくれる?小さい火でお願いね」
「ギュピッ」『まかせろ』
アカイノは火力調節した小さな火を口から吐いて上手に火を点けてくれた。
あとは、肉に塩やハーブを刷り込んで、仕込んだ料理を焼くだけだ。
先ずは豆豚の立派なステーキを5枚トングで乗せて焼く。アカイノは片面サッと火で炙っただけのステーキを4枚。私の分の一枚はミディアムで。
ドワーフのおじさん奮発して良いお肉を選んでくれたようだ。肉は極上肉で、柔らかく、口に入れひと噛みするとすぐにちぎれて肉汁と脂が絡み合ってジュワッと肉の旨味が広がる。付け合わせの野菜は容器ごと置いて豪快に2人で頂いた。
アカイノはテーブルの上に乗って、器用に皿の上の肉を足で押さえて嘴(くちばし)で裂いて美味しそうに飲み込む。
喜んで『ギュイギュイ』喉をならしているのが可愛い。肉だけじゃなく野菜もしっかり食べる所がエライね。
料理長が作ってくれたらしい大きな手作りソーセージも5本トングで乗せる。
脂が弾け、ハーブのいい匂いがする。パリッと弾ける皮の食感と、中の肉の丁度良い塩加減と弾力とハーブの香りが絶品だよ、料理長!
こちらも、4本はアカイノにあげた。
咥えたソーセージを喉をそらして飲み込む様に食べる姿がなんとも愛らしい。
シメは、先程アカイノが取ってくれたフルーツにした。アカイノは片足の爪を立て嘴を器用に使い皮ごとつついて食べている。
そのフルーツのはオレンジ色で、形はとてもドラゴンフルーツに似ていた。私はナイフでそれを半分に割りスプーンで掬って口に入れた。それはまるでキンモクセイの様な甘い香りがして、バナナミルクの様な味と、プルンとした食感が喉を抜けた。
「アカイノ、これめっちゃ美味しいねえ」
その後、後片付けをキチンとして、寝る準備をした。
掃除道具も置いてあったので、金網にこびりついた汚れはブラシでこそげ落とし、生ゴミ等は掘った穴に埋めた。
小川がすぐ近くにあるので手足を洗ったりするのにも良かった。
女の子なので、自主規制しますが、お手洗いは設置簡単、中の物は肥料に変換器付き現地処理型の、魔法のお手洗いです。
寝袋はフカフカで中に入ると直ぐに寝てしまった。
アカイノの寝床はバスタオルで枕元に作ってあげた。
次の日の朝起きると、アカイノが居ないので外に出てみると、アカイノが太い蔦を沢山採って来ていてキャンプ場の広場で何故か作業していた。うーん…これって、巨大な小鳥の…つぼ巣?
まるで小鳥のつぼ巣の様な大きな物を編み上げた。太くて硬い蔦を巧く編んで籠の様なので籠巣というのかな?
ご丁寧に上に持ち手の様な物まで付いている。出来上がるとツリーハウスの中に戻り、寝袋を咥えて飛び降りて来た。それをつぼ巣の中に敷き込むと、今度はフルーツをいくつか採って来て中に入れ込み、最後に私のリュックを入れ込んだ。ここまでされると、コレは私の為に作ってくれたのだと分かった。
「ぎゅるぎゅーる」
と、アカイノが言った。
中に入れと言っている。
忘れ物はないか、もう一度確認する。
籠巣の中は意外に広くて快適だ。寝袋の上に三角座りして外を見てみる。
すると、アカイノが跳びあがり一回転した。
バサリ、バサリ…
アカイノは翼を広げ竜に変幻した。
「ほわあ」
周りの樹木が風圧で靡く。
すぐ傍に、美しい艶やかな赤い鱗の竜が居た。目は縦に割れた引き込まれそうに美しい黒と金の瞳だ。
アカイノは自作の籠巣を覗き込むと一声高く鳴きバサリと羽を広げて、巣を咥えて飛び上がった。
魔力を使っている様で、中では風圧も揺れも感じない。
あっという間に眼下に大パノラマが広がった。巣の縁を持ってその景色を覗き込む。
フィアラはどうやら、高い所が好きだった。
怖く無い。絶景だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。