第8話 フィアラ卵を孵す

 卵を見つけ、突いてみた後、屋敷でのシルクとのやり取りを思い出した。

 シルクが島に行く前の注意事項を簡単に教えてくれると言うので、城のサロンで聞いていた時の事だ。


「お嬢様、かの島には様々な眷属が住んでおります。旦那様の島なのでそうそう危ない事は無いと思いますが、図鑑をしっかりお読み頂き、自分で判断し、危険だと思った場合は躊躇いなく始末する事が重要で御座います」


「始末って?」


「お嬢様は、人族ですので、とてもか弱くていらっしゃいます、かの島の者達の素行の悪いモノに、少々制裁をお加え下さっても相手に大したダメージは伝わりません。なので、まずその道具としてお使い頂きたいのは、このブーツで御座います」


「ブーツを?」


「このブーツは、旦那様がお嬢様が島でお怪我をなさらない様にと特別仕立てのお嬢様仕様としてお造りになられた物で御座います」


「そうなんだ、そんなに特別なんだ?」


「お嬢様の願いに答え、飛び、跳ね、登り、蹴ります。それ以外は普通の強化された防水ブーツで御座います」


「…すごいねえ、ザクって何でも出来るんだね」


「普段はその様な事は頼まれたって、誰にもなされませんよ。全ては次代の者が考えすべき事であるといつも仰られています。ですが、お嬢様は旦那様の特別な方なのですよ。お嬢様にだけ、特別です」


「それは私にだってザクは特別だし…」


「そうでございましょう!そうでございますとも」


 何故だか、シルクはやけに機嫌が良くなり嬉しそうだ。


「お嬢様のお陰で、旦那様も見違える程にお元気になられ、城の皆、お嬢様に大変感謝しております。お嬢様が怪我などなさいませんように無事のお帰りを心よりお祈り申し上げております」


「う、うんありがとね」


 そうなんだよね、城の皆んな、人じゃ無いけどとっても好意的。皆んな優しくて居心地いいんだよ。


 あんまり今まで特別誰かにそう言う風に扱われた事が無かったから、凄く気恥ずかしいっていうか、嬉しくて言葉が出ないって言うか、特にザクなんかもう、優しくってその上とっても綺麗だから、余計に慌てちゃうよね。



  ていう事もあって、私は今、この卵の扱いをどうするか悩んでいる最中である。

 だってさ、この卵、臭いんだよ。

 て、ことはさ、


 臭い → 悪いモノが溜まっている ?


 ザクの時の経験上そんな感じする。臭さがおんなじって言うか・・なんか似た感じする。


 だから、ザクの時みたいに気付かない間に、素手で触って、大々的に浄化してさ、もしもこんな所で倒れて寝ちゃったら、間違ってマンドラゴラ茶を口に流し込まれたって気付けないよね。やるなら気をつけてやらなくちゃならない。


 まだ、浄化の練習もザクと時々手を繋いで練習するだけだからね、あんまりハッキリ言えないけど、なんていうか悪いモノが溜まっている感じがする。


 そっと手をかざして見る。この卵は『助けて』って言ったのだ。


「私の魔力を少しずつ送るイメージだよね…少しずつ、臭いの無くなれ」


 ザクに教えられたように自分の魔力で卵を包み、悪いモノを押し出すイメージだ。


『……』


 すると、意外にもあっさり、シュワっと黒い何かが煙になって抜けた。


「おお、抜けた!」


 今度はもう少し多めに自分の魔力(ちから)で卵を包んでやる。悪い物を強く押し出すイメージだ。

 シューシュワワー、黒くて臭いガスがもっと抜ける。


『…アリガト』


 なんか、卵も元気が出て来たみたいだ。だいぶ臭いも和らいで来た。


 もう一度同じ事を繰り返して、様子を見ていると、卵に亀裂かピキパキッと入った。


「あー!」


 なんと、中から出て来たのは、あの赤いキーウイの様な姿のドワーフ達が『赤い旦那』と呼んでいた者と同じ種類だった。


 卵から出て来ると、フィアラの足にすり寄って来た。モフモフしていて、あったかい。大きさが、フィアラの膝位まであった。


「ギュピイ、ギュピッ?」


「赤いのだ、赤いのの卵だったんだ」


 何であんなに瘴気にまみれていたのかフィアラには不思議だった。多分あのままだと死んでいただろう。


 嬉しそうにフィアラの足元に纏わりつく赤いのを撫でてやる。すると喜んでバタバタと羽を動かして跳ねまわった。


「良かったね、赤いの」


『アカイノ?』


「ん?」


『アカイノ』


 どうやら、自分の名前を『アカイノ』だと思ったようだ。

『アカイノ』『アカイノ』と言って嬉しそうだ。


「ありゃりゃ 、ま、嬉しそうだからいいか」


 さて、そろそろ行かなきゃと、思っていると、森がザワザワとし始めた。


「うわっ!何?!」


  いつのまにか頭上を埋める様に木の上にあのキーウイのようなドワーフ自治区に居た赤い鳥が集まっていた。


 フンを落とされたら大変だ。おもわず頭を両手で押さえながら上を見上げる。

 てか、羽が退化してる様に思ったけど飛べるワケ?


  すると、足元に居た『アカイノ』が息を吸い込む様な仕草をして急に近くの高い枝に飛び乗ると、威嚇する様に上の鳥達に向かって火を噴いた。


 ゴゴゴーーーーーーーー!!!!!

 げえ、火イ噴いてるよ!!!


「あっ、アカイノ森が焼けちゃうよ、ダメじゃん!」

 慌ててフィアラがアカイノに言うと、アカイノはピタリと止めて、飛び降りて、甘えるように足にすり寄った。


 そしたら、頭上に居た鳥達の内の一羽が、くるりと宙返りをして空高く跳ね上がった。


 バサリ、バサリ、バサリ…


 飛び上がった赤い鳥は大きく羽を広げたのだ。身体は急上昇して巨大化し、キーウイの様だったぽってりとしたフォルムは変化して、巨大で美しい、全身が鱗で覆われた赤竜となった。日光でキラキラと鱗が煌めく。


 赤い鳥は次々に飛び上がり、竜となって、空高く舞昇って行く。


「…もしかして、アレが火喰い竜?」

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