第7話 フィアラ拾い物をする

 連れて行かれたパオ周辺では料理がふるまわれていた。草地の彼方此方に絨毯がひかれ、沢山の始めてお目にかかる『人に非ざる者』らしき者達が居て、皆が和気あいあいとご馳走を頂いている。


 おいしそうですね、みなさん・・・

 私は、おいしそうなご馳走が、絨毯の上に所せましと乗せられているのを見て、わくわくして来た。


 近くには、やはり見たことない『キーウイ』に似た赤い鳥も五、六羽いて、器に高く積まれた料理を囲んで食べていた。

 見るからに「うめえ」「うめえ」と言っているのが分かる。


 本当は「ぎゅびーぐぐっ」「ぎゅびーぐぐっ」

 って言ってるんだけど、大きな木の器にめちゃくちゃ旨そうな、角がまあるくなって、とろんとろんの豚の角煮がうず高く積まれていてた。


 それをまた赤い鳥みたいな者達は、上手い事、崩れないようにくちばしで摘まむと、くいっと喉を伸ばし、ぷるぷるしている繊維がほろりと崩れる前に、つるりと飲み込むのだ。


 然も山盛りの角煮をアッと言う間に平らげる、すると次々に大皿に盛った角煮をパオからドワーフのおじさん達が運んでくる。他にも様々な料理が運ばれて来た。


「ぎゅびぎゅびっくくくーっ」

 たぶん、ちょううめえなこりゃ、と言っていると思う。そうでしょう、そうでしょうとも!



「お嬢さんもこっち来て座れや」


 ドワーフのおじさんに勧められ絨毯の上に胡坐をかいて座る。

「やっぱ、コレに合うんは地酒じゃ」


 おじさんは、大きな瓶(かめ)に入った地酒を木の柄杓で木の椀にとぷとぷ注ぐと赤い鳥の前にひとつづつ置いてやる。


「赤い旦那達もまあ飲んでくれや」

 私は、赤い鳥がどうやってお酒を飲むのか気になった。


 赤い旦那と呼ばれた鳥達は、魔力で椀を浮かせ、嘴(くちばし)を大きく開けた所に酒を上手に流し込む。


「ぎゅびっ・・くくーっっくっ」

 こんなもので足りるか、って感じで椀はその辺に投げてしまう。


「いける口だね、旦那方、どんと行ってくれ」


 今度は瓶(かめ)ごと赤い鳥の前に、ドンって据え置く。その中には長柄の柄杓が何本も突っ込まれていた。


 思った通り、赤い旦那達は、魔力で柄杓を操り、口の中にドパドパと酒を流し込み始めた。


「どんどんのんでくれよ、旦那達〜」

「お嬢さんは、ほい、葡萄水だな、これ飲みな」


 こちらは、ワインじゃなくて、葡萄の甘水だった。


 濃い葡萄の搾り汁を湧き水で割ったそうだが、とても甘くて美味しい。


 ドワーフのおじさん達もだんだん出来上がって来て、何だか赤い顔をしてただの酔っ払いだ。


  私は大きな角煮を一切れ皿にとり分けて、フォークの側面でナイフがわりに軽く押す様にすると、柔らかいお肉は繊維がすっと解けて抵抗なく切れた。それを別皿に盛ってあるパンに挟んで食べた。


「うっま」

 肉がとける…。指に付いた甘辛いソースを舐める。同じように作ってもう一つ食べる。


 絨毯の上には、トマト味の豆の煮物や、羊肉の蒸し物、パンやクロテッドクリーム、ケバブやナツメヤシのお菓子など、様々な食べ物が乗っている。


 そのうち笛やら太鼓を鳴らして、皆踊り始めた。

 おじさん達に、踊れ踊れと勧められて、輪の中に入って踊るのは楽しかった。

 どんな風に踊っても構わないのだ。皆それぞれ思い思いの動きで面白いったらありゃしない。


 踊っては休んで、また飲み食いし、また踊る。


 ついでに料理を運んだり、肉を焼いてるおじさん達の手伝いもさせて貰った。


石を積んで作った窯の上に網を乗せて、肉や野菜を次々と焼いては皿に盛る。


「そうそう、肉の片面がしっかり焼けてから、ひっくり返して、うんそうだ」

 焼き網の上の肉から弾けて、脂が炭に落ちると、香ばしい香りが立ち込める。


 色々な他の料理もそれぞれ味見するだけで、お腹も膨れ、さて、おいとましようと立ち上がる。


 その頃には他のお客様達は地面や絨毯に寝転がるか、起きて居てもヘベレケ状態だった。


 ドワーフのおじさん達も同じだ。

「ご馳走さま〜、美味しかったよ、じゃ、ザクの所に行かなきゃだから、またね」


 軽く挨拶を済ませて行こうとすると、最初に招いてくれたドワーフのおじさんが、お土産だと言って、ずしりと何かが入った皮の袋を二つくれた。


「お嬢さん、来てくれてありがとう、また遊びにおいで、ヒック」

「うん、おじさんありがとう」


「袋ん中は状態維持の魔法がかかってるからな、いつでも新鮮だ。大きい方は豆豚ステーキが入ってるから食べてくれ、丁度脂が乗ってるんだ」


「うわーありがとう!楽しみだよ」


 例によって、リュックに詰め込むと、楽しい気分のまま出発した。なんか、身体の中で魔力がぐるぐる回って、元気が満ち溢れて来るようだ。


 ブーツの力でピョイーン、ピョイーン、ピョイーン…と飛ぶように跳ねながら先を急いでいると、また森が深くなってきた。とりあえず、地図と方位磁石で方向を確認した。


 うん、ちゃんと思い通りの方向に移動出来ているので大丈夫だ。


 それからしばらく、ジャングルの中を飛ぶのは難しいので、果物があちこちになっているのを見たりしながら進んでいると、土の上に白い卵が転がっていた。


 なんでこんな所に卵が転がっているのか?凄い違和感がある。

 周りを見回してみたが、木の上に巣がある訳でもなさそうだ。

 


「ん〜?」


 やっぱりどう見ても大きな白い卵の様に見える。ニワトリの卵の様に小さくなく、両手で持って持てるかどうか?と思うような大きさだ。


 危険物ではないか一応落ちている枝の様なものでつついてみるが、ただの卵っぽい。

 何の卵だろうか、しかし、ちょっとアレだ……


「…臭(くさ)い…」


 そう、なんか腐った物の様な臭(にお)いがする。

 臭いは、間違いなくこの卵からだった。


「何だ、腐ってんのかな」

 そのまま、触らずに行こうとすると、


『タ…スケテ』


 とどこからか、頭に響いてきた。


 どう考えても、この卵っぽい。


 もう一度、棒でつついてみた。


『タスケテ』


 もう一度、棒でつついてみた…


『・・・』


 あ、怒ったっぽい…





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「さて、私の大切なフィーは楽しんでくれているかな?」


 そう言って、水晶玉を覗き込む私を、呆れた顔で見ているのは竜族の友人だ。


「お前、放置して置いて来たくせに、よく言うね」


「何を言うのだ、私が側に居たら真綿で包んで撫で回すだけだから、離れて見ていろと言ったのはそなたではないか」


「言ったけど、本当に置いて来るなんて思わないだろう、あんな子供なのに」


「子供だが、驚くほどしっかりはしているのだ、私だとて断腸の思いで彼女を置いて来た」


「まあ、彼女がこちらに来た時から、島の空気が変わったのは確かだな」


「出来ることなら一日中でも手を繋いで居たいくらい彼女の浄化の力は尊いのだ」


「会話が成立しないっつーの、まったく、囲い込み過ぎだと思うぞ、もう少し外に出してやれよ」


「それは分かってはいる、だが、もう少し勉強をしてからだ。ここなら私の結界内なので安心出来る」


「まるで、過保護な母親の様だな」


「ふん、どうとでも言えば良い」


「それはそうと、お前の兄上が身罷(みまか)ってから、少し経つが、どうして誰も側に置かなかった?」


「人は直ぐに枯れる。皆誰も通りすぎて行く…ただ何も欲しいとは思わなかっただけだ、傍に置きたいと思ったのはフィーだけだ」


「・・ふうんそれ程なのか・・何にも執着心のないお前がね。珍しい事もあるもんだ、まあ俺も運命を待つ者だから、わからないでもないが・・」


「私は・・あの出会いから、初めて自分がこの世界で生きている事を実感した。私に足りなかった欠片が見つかったのだ。そなたの言葉を借りれば、フィーは私の運命なのだろう」


「・・そうか、それ程の相手なのか」

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