第3話 フレークス港



 私はザクに連れられてリンド港から王都に近いフレークス港に着いた。

 フレークス港は外交の拠点でもあるので、南の大陸ロードカイオスや、東の大陸カイナハタンとの流通は、主にここでなされる事が多いという説明をザクから受けた。



 他国の船が着く船着き場は、国内の船が着く一般用の港とは完全に分けられてる。国内の船が出入りする一般港でも、入港契約札を持っていない船は魔法障壁に弾かれ港には入れない仕組みになっているそうだ。


 契約札の申請は、国外か国内かでエルメンティア王国の外務省の交易局と、国土交通省の海事局とに申請場所が別れるのだという。


 先ほど触れた、外国船の入港は外国船専用の港が別にあり、そちらは要塞のように税関等を含む建物が港にそびえ、威圧感が半端ない。

 

 入港契約札を持っていない、突然やって来た新規の外国船は、やはり魔法障壁に弾かれ入港できないのだが、諦めずにごり押しして来る輩は、港の税関に常駐している魔法師団によって、排除されてしまうそうだ。


 ザクと二人、一般港に到着した後は、何事もなく港から港街に入る事が出来た。そこは今まで知っていた田舎の町とは全くの別世界だった。


 賑やかさと活気があり、珍しい外国の雑貨を扱う店や、生地を扱う店、異国の変わったデザインの洋服を扱う店等々。そしてカフェ等も並び、異国情緒たっぷりの露店なども数々あり、見る物の目を楽しませてくれる。


 私にはそれらが珍しく、キョロキョロしながらザクに手を引かれて歩いた。

 ザクはとても背が高い。今までこんなに背の高い人には出会った事がない。


 それにローブを被ったままなので、顔も見えないし、身長差からは、親子の様に見えるかもしれない。などととりとめもない事を考えながら歩く。


 子供の頃から誰かに手を引かれて歩くという経験が無かったので、少々気恥ずかしかった。その手の感触はさらりとしていて、心地よい温かさが伝わって来る。


 送迎の馬車には、決められた馬車止めの場所があるらしく、ザクの家の馬車はそこで待っているとの事だった。


 港町の様子を見たいならもう少し見て歩いても良いとザクが言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。だって見てみたいよね。

 それに、とても美味しそうな、いい匂いもあちこちからして来る。



『ぐ~ぎゅるぎゅ~』

 ああっ、お腹が鳴ってしまった!


「なんだ、ウシガエルを腹にでも飼っているのか?」


「ちっ、違うよ、もう。お腹へったし、なんか食べたい!」


 恥ずかしくて怒った様に言ってしまった・・。お腹が減ると誰しも怒りやすくなるものだ。それに、幸いお金は持っている。


「ああ、そう怒るな、好きなものを買ってやろう、なんだ、どれが良い?」


 ザクが楽しそうな声を出して、引いていた手を放し、懐から巾着を取り出した。


「あ、いいよ、私お金もってるし、大丈夫」


「大丈夫ではない、フィーは私の連れなのだから私が支払う。子供が遠慮などするな」


 まあそこまで言われれば、私も断りはしない。遠慮なく食べたいものを指さした。

「アレ食べたい、めちゃくちゃ美味しそう」


 ジュウジュウという、混ぜた具材を鉄板に流し込む音や、香ばしい香りがする。 お店のおっちゃんが、手際良く一人できりきり働く露店の前まで行く。


 おっちゃんは、使い古された様な小さめのボールの中に、小麦粉と卵とダシを投入して混ぜると、スパイスを適当に振り入れた。

 千切りにされた数種の野菜と、ブタバラのこま切れ肉と混ぜて炒めた上に、さっきの混ぜた卵液をクレープのように丸く薄く流して焼いて返した。


 そして、その横に片手割りでコンコンと鉄板の縁に生卵を当て、ジュワーっと卵を流し、黄身をヘラの角でコンッて突いて潰すとその上に焼けた生地を乗せて押し付ける。


 火が通ったら、指よりも少し幅がある位の平べったい竹の棒に生地と卵がくっついた生地がくるくると巻き付けられ、それにハケでソースをたっぷり塗るのだ。


 このソースが照りのあるトロリとしたソースで、鉄板の上にこぼれると、ジュワーっと香ばしくこたえられない良い香を出すのだ。

 一連の流れる様な動きに見とれながら私は聞いた。


「おじさんこれ一つ、ねえ、これ何て言う食べ物?」


「おう、ぼうず、これはな、東の国のとん平棒って言う食べもんさ、旨いぞ、ソースはなフルーツと野菜と、ショーユとハチミツを煮詰めて作ってあんだぜ、うんまいぞ、120エルクな」


 おいしそう、おっちゃんの笑顔付き。


 そこに、黒いフードを被ったザクが、すかさず240エルク出した。

「二つくれないか?」

「へい、ありがとうございやーす」

 くるくる、くるくるっと棒に巻き付け、ソースをかけて渡してくれる。


「おいひい!すっごいおいひいー」

 あちち、となりながら口一杯頬張って私は叫んだ。


「んーっ、旨い!」

 ザクも思わず声に出たという感じだ。


 二人で並んで、もぎゅもぎゅ食べた。しっかり焼けた、黄身のコクのある味と、白身の弾力、モヤシやキャベツがシャキシャキして、豚バラはカリッとした所も有り、色んな美味しさがこの棒付きのお焼きの中に凝縮されて、めちゃくちゃ美味しかった。


「旨かった。何十年ぶりかに旨い食べ物を食べた様な気がする。安価でも旨い物が存在するのだな」


「ええ?いつも何を食べてるの?」


「そうだな、魔素だ」


「魔素!?まそって何?」


「冗談だ。だが、物を食べて旨いと思う事など、とうに忘れていた」


「え~それは、あんまり楽しくなさそう。安くて美味しい物って、他にも沢山有るよ」


「そうか、ではまた二人で来よう」


「うん、さんせー!」


 その後ザクは、私が欲しがる駄菓子の様な物をいくつか買い与え、賑やかな港町を後にした。私はこんな楽しい思いをしたのは初めてだった。


 ザクに連れられて、いかにも貴族用の馬車留めに近づくと、立派な馬車の前で馭者のお兄さんが、深々と腰を折りザクを迎えた。


「旦那様、お帰りなさいませ、お待ちしておりました」


 後で知ったのだが、ザクが魔法で港町まで馬車を寄越す様に屋敷に連絡したのは、私の為だったのだ。


 無意識のうちに大きな浄化魔法を使った私の体調を鑑みて、馬車を呼んでくれたのだ。普段の彼ならば移転の魔法を使い直接屋敷に飛ぶであろう距離であった。


「急にすまぬな、フィルグレット、ありがとう」


「勿体ないお言葉で御座います」


 フィルグレットと呼ばれたお兄さんは、とても綺麗な人だった。物語に出てくるような、エルフみたいな美麗な人で、まわの人が振り返って二度見する程度には人間離れしていた。


 でも、ザクを先に見ていた私にはそれ程の衝撃をもたらさなかった。


「この娘は、フィアラ。私の浄化師だ」


「旦那様、宜しゅうございました。私、心よりお祝い申し上げます。お嬢様、フィルグレットに御座います。以後、お見知り置きを」


「あ、はい、宜しくお願いします」


 どっから見てもお嬢様には見えない私に優しく手を添えて馬車に乗せてくれたお兄さんは、ザクに後で聞いた所によると、なんとエルフと人間のハーフなのだそうだ。


 知らなかった、エルフって今も実在するって事。絵本の中にしか居ない人達だと思っていたよ。


 馬車に乗りそのまま高く長い市壁沿いに走り、エルメンティアの港町門に向かう。色石を使われた石畳みの紋様が美しい。


 隣接する城下町に入るには、市壁があり、出入りは全て港町門で確認される。

 大まかに分けて、王都に繋がる門は二つある。外国の貴人用、その他の外国人用に使われる特別門と、国内の人が使う一般門に分けられているのだ。


 一般門の中も三つに分かれている。国内の商人、一般人、貴族用で分けられている。トラブル等を防ぐように、考えて造られているようだ。


 私は、ちゃんと自分の出身証明カードを家から持ち出していたが、使うと居場所がバレる所だったなあと思った。


 ザクのお迎え馬車に乗って、貴族門からスルーして城下町に入ったので必要無かったので助かった。




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ー貨幣価値について 詳細ー


大金貨1枚 10万円

金貨1枚 1万円

大銀貨1枚千円 / 千エルク

銀貨1枚 百円 / 百エルク

銅貨1枚 10円 / 10エルク


※ 庶民は大抵、エルクと言う単位でお金を使う。


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