第29話 ロイ・ワイズバーン

「うわっ!?なんだよコイツ!!」


家に入った雅明の第一声がこれである。


凛の治療のために家の中に入った4人。


リビングにソファがあったのでそこに凛を寝かせるためにリビングへ向かった。


するとそこには1人の男がボコボコにされた状態で倒れていたのだ。


雅明もロイもまさか家の中でも戦闘があったとは思っていなかったようでかなり驚いていた。


「あー…はは…」


歌織は苦笑いだ。


「僕たちが目を覚ました時にはこの部屋に入ってきていてね…。隙を伺ってちょっとね」


典明は何のことはないといった表情で話している。


「にしてもこれはさすがにやりすぎじゃねぇか…?」


雅明が典明に言う。


ロイも何度も首を縦に振って頷いている。


「僕だけじゃないよ」


「は!?」


「え!?」


典明の言葉に雅明とロイは同時に声を上げ、残りの1人である歌織に顔を向ける。


ちなみに上から雅明、ロイである。


だいたいこういった時の雅明のリアクションは「は?」と言う。覚えておこう。


歌織は雅明とロイの視線から逃れるように目を逸らす。


「いやだって…雅たちがどうなってるかわからなかったし、早くなんとかしようと…。って典明さん!?その言い方じゃ私がほとんどやったみたいじゃないですか!?」


歌織のノリツッコミのようなリアクションに典明は吹き出す。


「ふっ…はは。ごめんって。相変わらず歌織は良いリアクションしてくれるね…っふふ」


「笑わないでくださいよ!」


典明は歌織をからかって楽しんでいる。


「…なぁ、あれってデキてんの?」


ロイはこそっと雅明に問いかける。


「あぁ、いや…」


「デキてませんッ!!」


ロイの言葉は歌織の耳にも届いていたようで、雅明が答えようとする前に全力で否定した。


からかわれたこともあり、歌織の顔は真っ赤だ。


「お、おお」


ロイは歌織の全否定に驚くばかりだ。


「ってそれよりも凛を!」


歌織は凛のことを思い出し、ロイに声をかける。


「あぁ、この辺のやつどけてくれないか?」


相も変わらず散らかったこのリビングは、ソファも資料やら何やらでいっぱいだった。


歌織がすぐさまソファの資料をどけたので、ロイはそこに凛を下ろす。


「で、治療ってのは?」


「ああ、僕の能力でするんだけど…どこを怪我しているかわかるかい?」


ロイの言葉に答える典明。


「いや、わからねぇな」


「雅は?」


ロイがわからないと答えたので、典明は雅明にも聞いてみる。


「俺もわからねぇな。でも大丈夫だろ?」


雅明は典明の能力についてもよくわかっているので、怪我の場所がわからなくても大丈夫だと考えている。


「まぁそうなんだけどね。わかってたほうがやりやすいから」


そう言いながら典明は凛の体に手を当て、エネルギーを与えていく。


エネルギーは凛の体に浸透していく。


「へぇ、大したもんだな。あんたも治癒系の能力持ちなのか?」


典明の治療を見たロイは尋ねる。


「いや、応用しているだけだよ。僕の能力はあくまでエネルギーを操るものだからね。エネルギーを与えて本人の治癒力を上げているだけだから、完全に治すわけではないんだよ」


「へぇ…。どんな能力も使い方次第ってわけか…」


典明の能力の使い方にロイは驚いている。


「…っと。これくらいでいいかな。しばらくしたら起きると思うよ」


典明の治療は終わったが、凛が起きるまでは時間がかかるようだ。


「すぐに起きるってわけじゃないんだな」


ロイは治療が終わると同時に凛が起きると思っていたため、目覚めない凛を心配そうに見ている。


「さすがにそこまで万能ではないからね」


典明は苦笑いする。


典明の治療が終わったことで歌織も雅明もホッとしている。


「それで、えっと…ロイって言ってたかな…?」


典明はロイに向き直る。


ロイは雅明と凛には名乗っていたが、歌織と典明には名乗っていない。


典明の言い方でロイも名乗っていなかったことを思い出し、改めて名乗る。


「ロイだ。ロイ・ワイズバーン」


「雅明の兄の夕凪典明だ」


「おう。…で、そっちは?」


ロイは歌織のほうを見たので、歌織も同じように名乗る。


「五十嵐歌織です。よろしくお願いします」


「典明に歌織だな、よろしく。よろしくついでにと言ったらなんだが…あんたらに謝らなきゃならねぇ」


典明と歌織は謝られることに心当たりがないため、2人揃って首をかしげている。


「あんたらを気絶させたのは俺なんだ。すまなかった」


ロイの謝罪に2人は顔を見合わせる。


「この家、コイツの知り合いの家なんだと」


雅明がロイの謝罪に補足する。


「そう、それでここの家の奴が特殊でな。んで、それをどこからか情報を仕入れた人間が荒らしに来るんだよ。だからお前らもその類かと思ったってわけだ。本当にすまない」


「いや、それを言うならこっちこそ謝るべきだ。鍵が開いていたからといって勝手に入ってしまったからね。すまなかった」


歌織も典明に続く。


「すみませんでした」


ロイは歌織と典明から謝罪が来ると思わなかったのか、一瞬間があったが、すぐにまた2人に謝罪する。


「そうとは言え、お前らのこと殴っちまったんだ。お前らに謝る理由はないと思うが…」


「いや、むしろそっちは正当防衛だから謝る必要はないと思うよ」


ロイの謝罪を皮切りに謝罪合戦が始まる。


ロイと典明のどちらも譲らない。


歌織はそこにこそは入らないが、典明と一緒に行動していて、ここを見つけたのは自分だからということもあり、典明と一緒に頭を下げている。


雅明以外が頭を下げているという謎の光景がそこにはあった。


「なんだよコレ…」


雅明は止める気にもならないのか、ぼそっと呟き遠い目をしていた。


(——早く凛起きてくれねぇかな。)


そんなことを考えながら雅明は3人の謝罪合戦が終わるのを待った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死亡フラグを叩き折れ!(仮) @no39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ