第28話 バラバラの甲冑

時は少し遡る。


雅明とロイはバラバラになった甲冑との攻防を繰り広げていた。


「ほんっ、とに鬱陶しいなコイツら!!」


的が小さく、数が多いため2人は苦戦していた。


それでも壊していけば動かなくなるので、迫ってくる甲冑の腕やら足やら胴体やらをひたすら壊していた。


ふと雅明の右肩に重みがかかる。


雅明が肩に目を向ければ、甲冑の手が雅明の肩についていた。


「マジかよ…っ!」


気付いた雅明は左手で甲冑の手をつかみ、肩から離そうとしている。


だが甲冑の手は離れるどころか雅明の肩を握りつぶそうとしてきた。


「いっ…!」


肩が軋む音がする。


早く離さなければならないのに思いのほか力が強いのか、なかなか離れない。


(——このままじゃ折れる!)


雅明が最悪の状況を想像した瞬間、肩を握りつぶそうとする甲冑の手はなくなった。


振り向けばロイが斧の先を雅明に向けていた。


斧の刃とは別になっている、先端についた槍のような刃で壊したようだ。


「危なかったなぁ、雅明くんよぉ」


ロイはニヤニヤしながら雅明に言う。


雅明はイラっとしたのでロイに反論しようと思ったが、甲冑ががロイに向かって行ったので、お返しと言わんばかりにその甲冑を破壊した。


自分の顔のすぐ横を通っていった木の枝に驚きながら後ろを振り向くロイ。


自分に迫っていた甲冑(胴体)が串刺しになっていた。


「…わーお」


「危なかったなぁ、ロイさんよぉ」


ついさっき聞いた台詞をそのままロイにぶつける雅明だった。


「助けてもらったはずなのに礼を言いたくないのはなぜだろうか」


そんなことを言いながらも、迫ってくる他の甲冑を両手にある斧で壊していくロイ。


「その言葉っ、そのまま、返すぜっ」


雅明もちゃっかり皮肉を返しながら、甲冑を剣代わりにしている木で壊していく。


時に手持ちの植物の種を巻き、急成長させた植物に甲冑を捕まえさせ、1つずつ壊していく雅明。


両手に斧を構えながらも、時にはフランキスカを出し、飛んでくる甲冑を壊していくロイ。


2人の背中が合わさる。


「はぁ…まだ終わんねぇのかよ…」


雅明はだいぶ疲れているようだ。


声にも疲れが表れている。


「っおいおい、もうへばってんのかぁ?」


ロイも疲れてはいるようだが、まだ動けるようだ。


「うっせ、まだまだいけるわ」


ロイの売り言葉を買う雅明。


初めて共闘しているはずだが、案外良いコンビなのかもしれない。


動いている甲冑が一斉に2人に飛び掛かる。


「気持ち悪ィなぁ…」


そんなことを呟きながら構える雅明。


だが甲冑は浮いたままピタッと止まった瞬間、生気を失ったようにガラガラと地面に落ちていった。


「は…?」


雅明はその光景にぽかんとしている。


「終わった…のか…?」


ロイも呆気に取られている。


そんな中、2人以外の声がどこからか聞こえてきた。


「雅ー!!そこにいるかい?」


声は小さく、くぐもってはいるが、典明の声だ。


「典!目ぇ覚めたのか!そこ開けるから待ってろ!」


雅明が家に向かって行くのを見て、ロイも甲冑を気にしながら雅明について行く。


玄関の扉を塞いでいた木を枯らしていく雅明。


扉が見えてくると同時に凛の姿も現れるので倒れないようロイが受け止める。


その様子を見た雅明は扉を開けた。


そこには典明の姿があった。


後ろには歌織の姿も見える。


「雅!無事だったかい?」


「まぁ…それよりそっちこそ大丈夫なのかよ?」


「そんな大したことはないよ。…そちらの人は?というか凛は大丈夫なのか!?」


ロイと横抱きにされている凛を見た典明は雅明に質問攻めしている。


「いやいや落ち着けよ、順番に話すから」


「そうは言っても凛が心配だ。大丈夫なのかい?」


雅明も典明の勢いに押されている。


典明の勢いにロイも驚いているのか言葉を発することはない。


「あ、あのー…?」


典明と雅明のやり取りを止めるかのように歌織の声が降る。


その声に典明と雅明、さらにロイも歌織へと顔を向ける。


3人の視線にたじろぎながらも歌織は言葉を続けた。


「とりあえず凛の様子も心配ですし…中に入るとかしませんか…?」


まぁ私の家じゃないんだけどね、なんて思いながらも歌織は提案した。


「それもそうだな。ロイ、入っていいか?」


雅明がロイに許可をとろうと声をかけていることに歌織と典明は頭に疑問符を浮かべる。


「いやなんで俺なんだよ」


声をかけられた当の本人も疑問に思っているようだ。


「お前言ってたじゃねぇか。知り合いの家だって。だから俺らが無遠慮にズカズカ入るよりも、知り合いのお前に一応許可とったほうがいいかと思ってな」


雅明の言葉に納得した歌織と典明もロイを見る。


「あーそういうこと…。ま、今更だろ。嬢ちゃん寝かせたいし入るぞ。あれがまたいつ動くかわからねぇし」


そう言ってロイは後ろを見やる。


歌織と典明はロイの言っている『あれ』が何のことだかわかっていないようだ。


「さっきまで俺らのこと襲ってきたんだよ、あの甲冑」


「もうだいぶ原型ないけどな」


雅明の言葉にすかさずツッコミを入れるロイ。


やはりなんだかんだ良いコンビなのかもしれない。


「まぁな。んで、それが壊しても壊しても動くからめんどくせぇんだ」


「じゃあ外が騒がしかったのはそれが原因だったのか…」


雅明の言葉で典明は納得したようだ。


先ほどの質問攻めのテンションが嘘だったかのように落ち着いている。


「じゃあひょっとして凛はその甲冑に……?」


歌織は不安そうな声で雅明に尋ねる。


「俺らも見てないんだけどな、おそらくそうだ」


雅明の代わりにロイが答えた。


「なら凛を早く寝かせよう。治療するよ」


典明がそう言うと残りの3人も頷いた。


こうして4人は再び家の中に入っていった。

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