第27話 家に向かった影②

足音が近づくにつれて緊張が高まる歌織。


横にいる典明も動く気配はない。


(——どうする?まだ待つ?)


目を開けて距離を確認したいがそんなことしたら相手にばれてしまう。


聞こえてくる足音で判断するしかない。


歌織は耳にすべての意識を集中させ、奇襲をかけるタイミングを見計らっている。


「こいつら、使えるんじゃねぇか?」


意外と独り言の多い敵である。


だが今はその独り言がありがたい。


だいぶ声は近いことがわかる。


歌織はすぐに影を操れるように準備した。


タイミングを計っていた歌織の足に何かが当たる。


その瞬間歌織の足元から敵に向かって影が伸びていく。


「なっ何だこれは!?」


歌織は目を開け、敵を見る。


突然のことでかなり慌てているようだ。


(——今のうちに!)


「典明さ—」


歌織は典明に声をかけようとしたのだが最後まで言葉を紡ぐことはなかった。


歌織の横を風が通ったからだ。


「…へ?」


何が起こったのか。


歌織が敵のほうを見てみれば吹っ飛んでいた。


すぐ近くには敵を蹴ったのか典明の片足が上がっている。


さらに言えば、典明の全身にほんのり光を纏っており、上がっている足先は全身の比じゃないくらい光っている。


「いやあ、歌織が隙を作ってくれて助かったよ」


何事もなかったかのように話し出す典明。


歌織はあまりにも一瞬だった出来事に言葉が出ないようだ。


「さて、この男どうしようか」


典明が敵の男に目を向けるので、歌織も同じように男を見る。


食らったダメージが大きかったのか起き上がるのがキツそうだ。


「ぐっ…お前ら…!」


「おや、まだ起き上がる気力はあるようだね。もう少しエネルギーが必要だったかな」


典明は余裕そうにしている。


「舐めるなよ‥‥‥!俺の能力でお前らなんか!」


ヨロヨロと立ち上がった敵の体が透け始める。


(——うーん、なんか見覚えのある能力だなぁ。)


「さっきは不意を突かれちまったが、俺は無敵だ!なんてったって体を透かして物体からの干渉をなくすことができるんだからな!」


「僕たちは透ける能力に出会いやすいのだろうか…?歌織もそう思わないかい?」


男の言葉を聞いているのかいないのか、典明は男の言葉に反応せず歌織に話しかける。


「確かに私も思いましたけど…っていうか典明さんそれどころじゃないです」


「余裕ぶってられるのも今のうちだぜ!」


男は自分の能力に自信があるのかふらつきながらも堂々と向かってきている。


(——あれ?『物体』って言ったよね。ってことは…。)


「お前らはここで俺に殺されるんだよォォ!!」


男は両手にナイフを持ちズンズンと歩いてくる。


歌織は慌てることなく男の動きを見ている。


歌織も歌織だが典明は典明で動じる様子がない。


「まずは女から殺ってやるよォ!」


男は歌織に迫ってきた。


「シャノ」


歌織は相棒の黒猫、シャノワールを呼びだす。


「何したって無駄だってぇの!!」


男は歌織に向かって両腕を振り上げた。


だがナイフが歌織に迫ってくるかと思えば、男は両腕を上げたまま固まっている。


「…は?どうなってんだよこれ!?」


男の足元にはまたもや歌織の影が絡みつき、両腕に伸びていた。


「『物体』からの干渉はできないわけですよね?逆に言えば物体じゃなければ干渉できるってことだったんですね」


歌織の能力は影。


影は実体がないため物体という括りには入らないだろう。


そう考えた歌織はシャノワールを呼びだして男を拘束したのだ。


シャノワールを呼びだした理由は、細かいコントロールをするときに助けてくれるからだ。


万が一失敗してはいけないと思って呼びだしたというわけだ。


「僕の能力も物体ではないから、君が透けていようと関係ない、ということになるね」


典明はそう言いながら男に近づく。


「う、嘘だろ…そんなはずはない!!俺の能力は無敵なんだ!!こんな奴らに負けるわけがはぁっ!!」


典明は拳にエネルギーをまとい、男のみぞおちを殴る。


男は膝から崩れ落ちた。


「う…嘘だ…何かの間違いだ…」


そう言いながら男は後ずさっている。


男に近づく歌織と典明。


それはまぁいい笑顔で。


「相手が悪かったですね」


「相手が悪かったね」


同じような言葉を同時に言いながら男を追い詰める。


典明は再びエネルギーをまとった拳で、歌織は影で作ったハンマーで、同時に男を殴った。




凛が最後に見た影はこうして呆気なく歌織と典明に倒されたのだった。

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