第26話 家に向かった影①

「嬢ちゃん!しっかりしろ!」


ロイの声が響く。


その声で凛に異変があったと察した雅明も自分の周りの兵士たちを急いで倒した。


「何があった」


ロイに駆け寄って問いかける雅明。


「俺にもよくわからん。気づいたときはもう倒れていたからな」


「…アイツらにやられたか?」


「ない、とは言い切れないな。現にほら」


ロイの指す方向には兵士が1体。


ゆっくりこちらに向かってきている。


すかさずフランキスカを5本投げてその兵士をバラバラにしたロイ。


「一通り済んだことだし、家に入って寝かせておこう」


ロイはそう言うと凛を横抱きにして立ち上がる。


「そうだな」


雅明もロイの言葉に首肯し、2人揃って家に向かって行く。


だが背後からギシギシと何やら嫌な音が聞こえてきた。


雅明とロイが一緒に振り向くとそこにはバラバラになったままの甲冑が動いていた。


バラバラの甲冑は元に戻ることはなかった。


腕なら腕だけで、足なら足だけで動いている。


さらにいえば胴は芋虫のようにもぞもぞ動いている。


なにそれ気持ち悪い。


「一体どこのB級ホラーだよ…」


雅明も呆れている。


「マジか…。どうするよ、嬢ちゃん休ませたいところだが…」


ロイもこの光景を目の当たりにして若干引いている。


「とりあえず凛はそこの木にもたれさせとけ。攻撃が来ないようにしておく」


雅明が言っている木とは玄関を塞いでいる木のことだった。


ロイは言われた通りに凛を木にもたれさせる。


「これでいいか?」


「あぁ。危ねぇからそこから離れとけ」


ロイが離れた瞬間、凛の姿は木で覆われた。


「ひょー、すげぇなそれ」


急激に成長する木に感心するロイ。


「言ってる場合じゃねえぞ」


ロイの言葉をスルーした雅明。


随分余裕そうに見えるが、バラバラの甲冑は2人に迫ってきているのだ。


「とりあえずここから離れたほうがよさそうだな」


ロイは雅明に提案する。


「ああ」


雅明も同意見のようだ。


「行くぞ!」


ロイは両手に斧を、雅明は片腕に木の枝を、もう片方の手には種を握って甲冑のもとに走っていった。




——…おり…。歌織…おき…。


歌織は遠い意識の中で誰かに呼ばれている気がした。


(——誰…。)


一体なぜ自分が呼ばれているのか、ぼんやりした意識の中では理解できていない。


「歌織、起きてってば。歌織」


(——この声、典明さん…?私、何が…。……?!)


「っ!典明さん?」


自分が眠っていた理由を思い出したのか、歌織は一瞬にして目を覚ました。


「静かに。そのまま動かないで。誰かいるみたいだ」


すぐ近くから典明の声がした。


薄く目を開けて辺りを見渡す。


今いる場所は何者かに気絶されられた部屋から変わっていないようだ。


視界に典明はいない。


だが近くから声がしているのだ、いないわけがない。


そう考えていた歌織は、ふと肩に感じる温もりに気付く。


自分の足元を見てみれば、すぐ横に典明の足があった。


(——なぜ肩を並べるような状態になっているんだ、わけがわからないよ私。)


それもそのはず。


あの時歌織は、典明が倒れる姿を見たあとに意識を失っているのだ。


誰かが自分たちを運んでこうしたとしか考えられない。


「何やら外が騒がしい。僕もまだ状況が把握しきれていないからしばらくこのまま様子を伺おう」


「わ、かりました…」


(——ていうかこんなシーン見たことないんだけど…。)


歌織は戸惑っていた。


自分たちが陥っているこの状況は、原作を全部読んだ歌織も見たことがないのだ。


(——雅たちが動いている間典明さんはこんな状況になっていたとは。)


原作では典明が家に入ったあとはずっと雅明と凛の視点で進んでいた。


典明と合流するのはロイとひと悶着あって、そのあと敵と闘ってからだったと歌織は記憶している。


(——じゃあここにいるのはロイ?それとも敵…?)


確かめようにも、このままでと典明に言われている以上動いて確認することはできない。


自分たち以外に誰がいるかで状況が変わってくる、そう思った歌織は典明に小さな声で話しかける。


「あの、典明さん…ここに入ってきた人の姿は見ましたか?」


「いや…。何か探している様子だったことくらいしか…」


どうやら典明も見てはいないようだ。


そんなことを話していたら足音が近くなってきた。


どうやらこの部屋にいるもう一人の人物が歌織たちに近づいてきたようだ。


「くっそ…あいつらしぶといな。こっちはあの医者の資料を探さなきゃならないってのにとんだ邪魔が入ったもんだ」


(——医者の資料…?あいつらって雅たちのこと…?)


たまたまだが、近づいてきた人物が独り言をこぼしたおかげで歌織は状況がつかめてきたようだった。


典明にそのことを伝えようと思うが、小さな声とはいえど近づいてきた人物に聞こえてしまう危険性がある。


どうしたらいいか歌織は迷っていた。


(——もういっそのことタイミングを見計らってやっちゃうか…?)


歌織もなかなかに物騒な発想になってきているようだ。


いつまでものんきに典明と肩を並べて座っている状態ではないので、早めにこの状況から抜け出したいと歌織は思っている。


薄く目を開けて辺りを見てみる。


すぐそば、というわけではないが見覚えのない人物が何かを探していることがわかる。


探し物に夢中になっているのか、まだ歌織たちには気づいていないようだ。


この時間がもどかしい。


雅明と凛は敵と闘っているのだろうか。


ロイとはすでに出会っているのか。


いろんな思いが歌織の頭の中を交差する。


「…こいつら…外の奴らの仲間、か…?」


そんな中、部屋の人物が歌織たちに気付いた。

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