C-1
さて、時刻は深夜のいずれかを指し示している。ここは数時間前に少年二人と女子高生が密かな戦いを行っていた図書館である。当然のことながら今は誰も居ない。月明りがカーテンの隙間から紛れ込むばかりである。
しかしながら、その月明りに照らされる人影があった。こんな時間に図書館に佇んでいるのは誰なのか。一体どんな目的でここに居ると言うのか?
「目的と言われても解らないんだ。何でこの図書館に留まっているのかもね」
だって、私は幽霊だから。今日はよく跳ねたようだ。私にはそう感じる。あの時もそんな風に聞こえたもの。さて、語りを引き継がせていただく私の名は新井トキと言う。ずっと昔にこの辺りで絶命したようだ。その直後からフワフワと漂ってしまっている。一体何故なのか。どうすればいいのか。全く解らないまま今日この時まで幽霊としてやっている。
図書館に居るのは退屈しのぎに丁度いい、という理由もある。この図書館はそう大きな方ではない。しかし、私はこの場に存在する本を読みつくすことは出来ていないのだ。
私は遅読であるようだ。速く読める時もある。しかし、ゆっくり読むのが好きだ。ゆっくりと密かに読んでいく内に本棚の様子は変わっていった。読みかけの本が何処かへ行ってしまう事もよくあることだ。しかし、私はこんな環境が気に入っている。
そして、もう一つ楽しみがある。さっき『跳ねたようだ』と言う言葉を使ったが、それのことだ。この図書館ではその『跳ね』と出会えることがある。それには私も混ざることが出来る。私はそれらのことを『キラキラリア』と呼んでいる。
小学生二人と女子高生が少し前に何やら争っていた。当人達にはよく解っていなかったと思うが、はたから見ている私には大体の事情がわかっていた上に、面白おかしく観戦させてもらった。キラキラリアとは、つまりこれのことだ。
キラキラのアリア。変化する何か。ここで発生し世界に放たれる何か。先程のバトルによりキラキラリアが奏でられた。私もここに漂うその残り香を感じて、奏でて、歌う事が出来る。今もそれに触れている所さ。
私が触れて、奏でようとするものたちがどんなものなのか。残念なことにそれをお伝えすることが、今の私にはとても難しい。申し訳ないが、一部に留めさせていただく。
図書館という場には、様々な本が集まるもので、そこから時代の様相を探ることも出来る。様々な世界の童話が日本語にで読める。映画のノベライズというものも存在する。ゲームのノベライズというものも存在する。中にはフィルムコミックというような名称のものもある。映画をマンガ風に表現した本だ。ここで映画鑑賞体験も出来るのだ。
なお、私は映画館に忍び込むことも出来るので、実際の映画鑑賞も出来る。書店にもお邪魔することがある。私はそんな幽霊なのです。
さて、話をやや戻すことにしましょう。
クラシック音楽には『きらきら星変奏曲』というものがある。ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトという作曲家がフランスの流行歌を主題にして変奏曲集を作った。私が感じているものはそんなようなものであるのだ。もちろん、きらきら星のメロディが流れているわけではない。そんなような、何か。
また、何かが跳ねたようだ。私には、そう聞こえた。
月の光に紛れて、私のキラキラリアを放つ。また巡り合えること、紡ぎだせることを信じて。
(終わり)
キラキラリア 抜十茶晶煌 @crystal-ready
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