第14話 君のいない花火大会
君が消えてもう1年も経つのか。
呆気ないものだった。
居なくなった日、最初の3日間は部屋の中でただただ空っぽの時間を過ごしていた。
でも4日目の朝、僕は大学に行ったんだ。
それから今でも僕はそこで普通の大学生活をなんとか送っている。
”本物”になりたい、多数の人間の考えや世界の常識に妥協し”偽物”に成り下がりたくないと、小学生の僕らはそんな風なことを話していたと思う。
でも、今はこう思うんだ。
あの時の僕たちは、世界に適応できない自分自身を嫌っていたんじゃないかって。
本当は多数の人間が羨ましくて、妬ましくて、そんな彼らと自分を比べると自分がどれだけ空っぽなのかに気付かされる。
だからこそひねくれた考えを持つことによって多数にはない特別な人間になりたかった。
例えそれが孤独を生む救いようのない道だったとしても、それが”本物”だと信じてやまなかったんだ。
バカだなぁ、とも思うし、なんて美しかったんだろうとも思う。
その道に歩まなければ、きっと君には出会えなかった。
君を知らないまま生きていくことは、それこそ今の僕にとっては”偽物”になるのだから。
だから僕はこれからも歩み続けるよ。
君と信じた僕たちなりの本物の道を。
思い続けていれば、君の純粋な少女のような笑顔や落ち着いて囁いてくるような声が蘇ってくる。
その先できっと会えるって、信じてるから。
「なにぼさっとしてんのよー!」
甲高くけたましい声が聞こえる。
声の方向を向くとアヤノが僕の方を怪訝そうに見ていた。
白のゆったりとした半袖シャツに短いデニムジーンズ姿だ。
今日も青い蝶々のネックレスを首にかけている。
「ごめんごめん、なんでもないよ」
僕は笑ってアヤノの元へ走っていく。
今は彼女と新しい記憶を紡いでいっている。
日が経つごとにユリカと過ごした時間がどんどん遠い過去のものになり、時間を積み重ねては埋もれていく。
それが悲しくて仕方がなかった。
「あ!綿あめがある!買いに行こうよ!」
「でも、花火もう始まっちゃうよ?」
「えーちょっとの間じゃん、大丈夫だよ!」
その時、遠くからヒュゥゥ・・・と弱弱しい音が聞こえた。
そしてその小さな音に反して大きな爆裂音が響き渡り、夜空を赤、青、緑と照らしていった。
次々と打ちあがる花火。
その中でも白の花火が上がる度に胸が締め付けられるような思いがした。
誰もが夜空を見上げ、冬の花火にくぎ付けになっている。
彼女も見ているんだろうか?
屋台から見上げ、思いをはせる。
夜空には無数の小さな火花が輝き、魔法のように消えていく。
もし君が生き返っていつまでも一緒に居られたら。
また一緒にあの狭いアパートで暮らせたら。
あの無邪気な寝顔をまた見られたら。
また来年もこの場所で花火を見られたら、どんなに幸せだろうって。
それが叶わないと知っていても想像して心を躍らせてしまう。
毎日毎日彼女の事を考え、そしてどうしようもない空虚さだけが胸の中に残る。
僕は過去ばかりを見ながら生きていく。
それは彼女を思い続けること。
今この瞬間を生きられないのは、他方から見れば人生を無駄にしている、寂しい生き方だと思われるかもしれない。
でも僕にとってそれは幸せな事なんだ。
本物よりも美しい偽物。
それを信じているから。
今年もまた白いユリのような花火が冬の夜空へと打ち上がり、暗闇の中へと散っていった。
原風景に待つ君へ emo @miyoshi344
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