31. 狸祭りの夜
夜の九時。
小腹が空き、夜食でもさがそうかと台所にゆくと母がいた。
帰って着替えもしなかったらしく、ご立派な、でも妙にしょぼくれて見えるスーツを着たまま、カップラーメンをすすっている。
娘の存在に気づくと、ぎょっとした顔で、ザリガニかなんかみたいに隅っこにちぢこまった。
父が母に買わせた、全自動調理食洗機の、その
「あのさ。あんた町長だろ。一応さぁ」
そう私が
去年、中学にあがったばかりの社会見学で、
どすどすと足音をたててすぐ隣のリビングへ行く。
台所とは対照的に、
「親父どこいったん」
と聞いても耳ざわりな笑いを止めず、三度目に聞いてようやく、上の弟の
「アレっしょ。アレ。
と日本語になっていない返事をして、すでに瓶の半分あけたウイスキーに脳が
下の弟の
そこにあるのは父の写真だけ。いったい何が面白いのか。
主夫連の制服を着た父がフルカラーで引き伸ばされた、見るに耐えない図柄だった。
茶色と黒の制服を着た父の姿は、でっぷりと肥えた腹ともあいまって、本当に狸の焼き物のカリカチュアのように見える。
母が町議に選ばれて、父が家庭に入ることになった、あの頃の父は、ひどく
台所をふり返ると、すでに母は消えていた。
男女自治体首長数均等法とやらによって、数合わせでむりやり町長にされてから、気鋭の町議だった母は消えた。毎週のように主夫連からの突き上げに苛まれるボロ雑巾が残るだけだ。
よぉーっつ。
いきなり窓の外から不気味なほどに、大きく、野太く、大勢のかけ声が響く。
主夫連の男たちが、狸祭りの予行演習、腹をむき出して
人間の腹からひびいているとは思えない
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