20. 鏡よ、鏡

 お妃さまに妬まれて、お宮を逐われたお姫さま。

 聖河ナイルにそって南へのがれ、白き急流カタラクトをさらに越え、

 暗き密林もりへと迷いこみ、七人のやさしい小人デネグにかくまわれ、

 それでもなお、お妃さまのねたみ心は妖蛇アペプよりも猛々たけだけしく、荒神セトよりもなお執拗しつようで。


 小人デネグたちが留守のあいだに、家をおとずれた妖しい老婆。

 言葉たくみに騙されて、はるか北の地の産だという赤い果実をかじった途端。

 呪いの毒におかされて、お姫様のバアは飛び去り、カアはしばられ、永遠とわの眠りにつきました。


 小人デネグたちは嘆きながらも、お姫さまを葬りました。

 はらわたを取り脳を抜き、胃・腸・肺・肝、四つの臓を聖なる壺へとり分けて、

 心臓イブだけ残したなきがらを、ナトロンに埋めて水気を抜いて、

 砂漠の砂より乾いた木乃伊ミイラを、亜麻の布で丁寧に巻き、

 お姫さまの美しさを写して描いたひつぎにおさめ、

 故郷のおおきな墳墓を模した、四角錐型の石積みのお墓の下へと葬りました。


「お姫さまはよみがえる」

「いつの日か、立派でやさしい王子さまが、姫のひつぎを見つけ出す」

「棺をひらいて亜麻を切り裂き、姫のくちびるにキスをする」

「くちびるは瑞々しさを取り戻し、お姫さまは目をひらく」

バアはもどり、カアはめざめ、お姫さまは黄泉還よみがえる」

黄泉還よみがえったお姫さまは、王子の城へと連れてゆかれ、結婚式をあげるのだ。ずっと幸せに暮らすのだ」

「それでもそれでも、悪いお妃は許されない。冥府のはかりに裁かれて、

暗い闇へと堕ちてゆく。そうして長い時の果てに、金属かねの靴をはかされて、けた金属かねにつつまれて、さらに苦しい責め苦にあえぐ」

 七人の小人デネグたちの祈りと呪文が、密林もりのなかにひびきました。


 数千年の時がたち、

 お姫さまは今もなお、誰も知らない密林もりの奥、ひつぎのなかに横たわり、王子さまを待っています。

 お妃さまは、墓泥棒に墳墓をあばかれ、そのなきがらは鉄路をはしる鉄の靴――蒸気機関車にのせられて、石炭がわりに燃えるかまへと放り込まれて、踊るがごとくにはね回ったということです。


 

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