15. 恥
三年前に海で行方不明になった父が帰ってきた。
「おんぼんさん」になって。
帰ってきた父を見るなり、祖母は悲鳴をあげ、母は泣き崩れた。
家の者が「おんぼんさん」になったなどと知れたら、もはやこの町で生きてはゆかれなかった。
翌日には「おんぼんさん」が現れたという話は、町中に広まっていた。
だれもが顔を青くした。この町でこんなことが、情けない、恥ずかしい、と口々に嘆いた。
町の人びとの
県知事が自殺した。県出身の国会議員がそろって辞職した。全国で県の出身者が命を断ったり消息を絶った。みな、情けない、わが県は日本の汚点になった、と言っていたそうだ。
その翌日、「おんぼんさん」が発生した責任をとって、内閣は総辞職した。
各国の日本大使は謝罪に奔走した。企業は世界からのあらゆる補償に応じてゆくと広報した。国際社会に申し訳ない、近隣諸国にどうお詫びしたらいいのか、テレビも新聞も絶叫していた。在外邦人はみな自殺した。切腹した人もいたそうだ。
すでに「おんぼんさん」が発生したニュースは世界を駆け巡っていた。
ローマ法王が全人類に
動植物の生態は狂いに狂っていた。哺乳類はもちろん、爬虫類も鳥類も、無脊椎動物も、植物さえも、微生物にいたるまで、その行動に異変を生じていた。山川草木虫魚禽獣のすべてが、地球という星が「おんぼんさん」を出してしまった恥ずかしさと罪深さとに狂乱しているようだった。
一週間後には太陽も月も姿を消した。すべての星々は狂ったように暗い空を
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