6. 夏の陽



 酷暑が二週間ほど続いた、昼下がりのことだった。


 道のわきの、干上がって久しい側溝にふと目を向けたとき、その底に干からびた魚が横たわっているのを見つけたのだ。


 陽にかれほとんど砂と化した泥のなかにへばりついたそれは、干物よりも乾ききっていた。鱗をとおして骨格が見て取れるほどに干からびたその姿が、無残というか、哀れというか、とにかくつい見入ってしまった。


 と、そいつと目が合った。


 全身がカラカラになっていながら、茶色い皮膜に覆われた目はまだ、水分と生命とをうかがわせた。きょろきょろと動く白い瞳は、どことなく、こちらに助けを求めているかのように見えた。


 何だかいたたまれなくなって、歩み去ろうかという思いが頭をかすめた瞬間、魚の目は、うらめしげなものをよぎらせたかと思うと、ぱちんとはじけた。


 割れた皮膜のなかからどろりとした水分が流れ出す。乾ききったほおえらとを濡らす透明な一筋は、無念の涙を流しているように思えて仕方がなかった。


 不意に尾をはねあげたかと思うと、魚はそのまま身をひらめかせ、乾いた泥の中へともぐり去った。


 白い泥のおもてに、涙(?)のしずくだけが残っていたが、見る見るうちに真夏の日射しのなかで消えていった。

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