最終話 おとぎ話の終わりに その七



「勝ったな。これで、おれたちの生きていく世界は守られた。犠牲もあったが……」

「奥たちを迎えに行こうぜ。もう人間の世界とは、おさらばだ」

「ああ」


 悲しみをこらえて、ソルティレージュたちは人間の世界へ向かった。ところが、ゴブリン城へ着くと、そこでもまた問題が起きていた。


 迎えに出てきたエメロードの麗しいおもては、心なしか青い。


「殿。ご無事で何よりです」

「奥。もう心配はいらないぜ」

「それが、そうもいきません。大変なのです。ナルシスノワールたちがいないのです。あれほど部屋から出るなと言っておいたのに」


 ソルティレージュは唇をひきむすんだ。


「子どもたちって、ナルシスノワールと誰だ?」

「ロリガンとシャンダロームです。退屈して城をぬけだしてしまったようです。よしなさいと言ったのに、モマンダムールが追いかけていってしまって」


 エメロードは半泣きだ。


「よし。わかった。必ず、子どもたちは見つけてくる。アンフィニ、君はエメロードとともに、さきに魔界へ行ってくれ。戦いは終わったから、魔界のほうが安全だ。道中はポワーブルが守ってくれる」

「でも、ソルティレージュ。顔色が悪いわ。疲れているんじゃないの?」


 戦で力を使いはたしたのだ。疲れていないわけはない。しかし、無力な子どもたちが自分たちだけで外へ出たとなれば、探さないわけにはいかない。


「人間に見つかる前に探しあてるんだ。インウイ、おまえとシャマードはモマンダムールを。シャンダロームたちはおれが探す」

「見つけたら、すぐに魔法の合図を送るよ」


 手わけして探した。


 そのころ、小さなお人形のような子どもたちは、人目を盗んで大きな街の王宮にまで入りこんでいた。いたずら盛りの子どもにとって、初めて見る人間の街は、目新しいものばかりで、ついつい大人たちの言いつけを忘れて、深入りしすぎたのだ。


「ゴブリン城みたいだね。誰が住んでるのかな?」

「お城と言えば王様だよ。シャンダロームはそんなことも知らないの?」

「し……知ってるもん。ナルシスは、えばりんぼ」

「ふうんだ。シャンダロームがおバカさんなんだよ」


 ケンカする男の子を、ロリガンがひきとめる。


「もう、やめて。そんなことより、お友達になってくれる子どもはいないのかしら?」

「探してみようよ」


 三人はお城のなかを歩きまわり、豪華なオモチャのたくさんある部屋のなかで、体の大きな女の子を見つけた。自分たちより何十倍も大きいが、年齢は同じくらいのようだ。お城のお姫様である。お姫様は魔物の子どもを見ても、不思議に思わない年頃だった。


「可愛い。あたしのお友達。ずっと、いっしょにいてね」

「ずっとはダメだよ。おうちに帰らないと叱られちゃう。でも、いつでも遊びに来るよ」

「ほんと?」

「うん。遊ぼう。かくれんぼしよう」

「いいわ。あたしが鬼さんになってあげる。小さいお友達は隠れてね」


 無邪気に遊んでいたのだが、その姿を大人が見てしまった。お姫様が人間では入りこめないようなスキマを探しまわるのを不審に思い、ついには手の平に入るような小さな子どもが見つかってしまった。お城は大騒ぎだ。


「悪魔だ! 城内に悪魔がいるぞ!」

「悪魔の子どもだ。見つけて、とっつかまえて、ぶち殺すんだ!」


 兵士も侍女も下働きも、みんなが口々に叫びながら、子どもたちを探しまわり、物陰でおびえていた三人を捕まえた。


「やめて! あたしのお友達を返して!」


 お姫様は泣きわめいたけど、いつもはお姫様に甘い王様も、このときばかりは厳しかった。


「殺せ! すぐに殺すのだ。中庭にまきを積むがよい。悪魔は火焙りにするものと決まっておる」


 人間たちは虫かごに入れた小人と、縄で縛った子犬なみに小さな馬をとりかこんで、わあわあと叫ぶ。

 三人は恐ろしさにふるえあがった。


「助けて。お父さん。お母さん」

「ごめんなさい。もう言いつけをやぶったりしないよぉー。だから助けて」


 泣き声も虚しく、広い中庭にたっぷりと薪が積みあげられた。虫かごに入れられ、縄で縛られた子どもたちは、薪の山のまんなかに置かれた。


「火をつけろ!」


 王の命令で、松明たいまつを手にした刑吏が近づいてくる……。

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