二〇二〇年お笑い系マイベスト
あともう少しで、二〇二一年も半分が過ぎるというのに、非常に今更な、超個人的二〇二〇年のお笑い回顧録である。
こちらと呼応して、拙作のエッセイ『ペンギン自由帳』でも「二〇二〇年マイベスト」を書いているので、よろしければそちらもどうぞ→https://kakuyomu.jp/works/1177354054887276308/episodes/1177354055632126999
・マイベストコント 『コントの日 2020 新しい生活』より「ズブズブと森のおともだち」(二〇二〇年十一月二十三日)
二〇一八年から、年に一度、NHKが放送しているコント番組。会長のビートたけしさんを筆頭に、劇団ひとりさん、東京03、ロッチ、チョコプラ、ハナコ、ロバートの秋山さんとジャンポケ斎藤さんと新川優愛さんと、出演者もコントのスペシャリストでとても豪華。
毎年、『コントの日』では流行や時事を切り取ったコントをしている。今回はサブタイトルに「2020 新しい生活」とあるように、コロナ禍の世間を色濃く反映した内容になっていた。例えば、フルーツサンドやリモートワーク、おうち時間やレジ袋有料化などがあった。
しかし、その中で唯一、何が元ネタになっているのか分からないコントがあった。それが、「ズブズブと森のおともだち」というタイトルの、『おかあさんといっしょ』に出てくる人形劇みたいなコントである。
森のシェアハウスで、劇団ひとりさんが演じるフクロウのズブズブが寝ている所へ、博士からもらったケーキを持って、ロッチの中岡さんが演じるロボットのマジメカが帰ってくる。マジメカが手を洗おうとその場を離れた隙に、ズブズブによってケーキが全て食べられてしまった。
その場にはズブズブしかいない上に、口元にクリームが付いているので、マジメカに責められるズブズブだが、とぼけるばかり。そこへ、新川優愛さん演じる少女・アリスが歌のレッスンから帰ってくる。
マジメカから事情を聴いたアリスも、ズブズブを叱るが、そんな彼女にズブズブは耳打ちする。「今度、開かれる歌のオーディション、私の友達が審査員長なんです。あなたが選ばれるように口添えしますよ」と。アリスは態度を豹変させ、ズブズブの肩を持ち始め、マジメカは割を食ってしまう、という内容。
はじめは、フクロウのキャラクターらしく、「ホ~」と鳴くだけだったズブズブが、アリスに対して急に饒舌ないい声で、買収してくるというギャップにゲラゲラ笑い、「ズブズブ」という由来不明な名前の意味も分かったのがまた面白かった。
第二話はマジメカとズブズブのかけっこ対決で、負けたズブズブのために、村長(東京03の豊本さん)がこっそり一着と二着の賞品を入れ替えるという無茶苦茶なことをやってのける。ここで、博士(ロッチのコカドさん)が登場し、マジメカは、腐敗しきったこの森と戦うために作られたということが判明したのだった。
ラストに、作詞がひとりさん、作曲が竹内まりあさんというとても豪華な、子供番組風な曲が流れる。最初はアリスが真ん中のマイクの前にいるのに、それを押しのけて歌うズブズブ。歌では、ズブズブが仲のいい人たちを紹介していて、その中には演歌歌手や芸能プロダクション社長、そして闇カジノのオーナーがいた。
最後まで見た後でも、このコントの元ネタが分からないなぁと思っていたのだが、ふと思い出した。二〇二〇年、衆議員が収賄によって逮捕された事件があった。それが元になっているのでは、と。
それを見ると、「森のおともだち」というタイトルにもかなり含みがあることが分かり、にやにやしてしまう。ズブズブ寄りなナレーションも、皮肉のように聞こえてくる。
子供向け番組のパロディの体をなしながら、高度な風刺に感心しっぱなしだった。もやもやするものを抱いたのなら、それはそのままこの社会に対するものだろう。「ズブズブと森のおともだち」は、まさしく今年を表したコントの代表格となった。
次点で、見取り図「南大阪のカスカップル」、空気階段「定時高校」、かが屋の賀屋さん「服屋」。
・マイベスト漫才 金属バット「M-1グランプリ敗者復活」(二〇二〇年十二月二十日)
二〇二〇年のM-1グランプリは、運命の悪戯か、小林さんの引きの悪さか、敗者復活のトップバッターの金属バットから始まった。
非常に寒そうに肩をすぼめながら、野外ステージに上がったお二人がやったのは、「彼女」というテーマの漫才だった。これがトップバッターじゃなかったらと思えるほどの漫才だった。
小林さんには、十年付き合っている彼女がいるが、中々結婚を踏み出せない。結婚相談所で出会ったのにもかかわらず。
その彼女は、小林さんと一緒にいると胸がいっぱいになってご飯が食べられなくなったり、絵が趣味だったが隣に最高のモデルがいるからそれを辞めてガーデニングを始めたりと、非常に甲斐甲斐しい性格の子。友保さんはそれを聞いて「きゃわいらしい」と連発するが、小林さんはそれが合わないという。
彼女は、小林さんの理想よりも低いという。それは、顔や身長の話ではなく、モラルの話だった。
コンビニのトイレットペーパーを転売してイソジンを買い占めたり、一日中ビックカメラのマッサージチェアに座っていたり、タピオカ屋を脅していたりと、モラルがゴミクズどころか、小林さんから「国民の敵」と言われてしまう始末。友保さんも別れなさいと忠告するが、生命保険を回収するまで別れないと言われているというのがオチ。
前半で、ちょっとずれているけれど可愛らしい彼女が、後半のモラルの低さが判明してから、印象が地まで落ちるという、高低差がジェットコースターなネタ。
友保さんは終始ツッコミに徹しているが、ちょくちょく妙なワードが入る。マッサージチェアの下りで「揉まれすぎてつくねになる」とか、タピオカ屋の所で「ヘキサゴンのOB?」とか。そこがまた気持ち良い。
テレビで披露される金属バットのネタでは珍しく、時事ネタが多かったのも印象的。大阪府民の二人がイソジンの騒動をいじるところはぞくぞくする。
特に、ガーデニングで育てているのは、中国から送られてきた謎の種というボケに、雷が落ちたかのような衝撃を受けた。途中まで、大麻や危険ハーブかなと考えていた自分の浅はかさが恥ずかしい。「あったね、そんな事件!」というジャストなラインだと思う。
今年のベストを選ぶとしたら、もちろん今年見た中で一番面白かったものという思いもあるけれど、それ以上に今年しか見れないもの、という気持ちが強い。
それを踏まえると、二〇二〇年のM-1という大舞台で、決勝に挑むために練られた漫才という意味で、こちらを選出した。
次点で、霜降り明星「焼肉屋」、すゑひろがりず「はじめてのおつかい」。
・マイベストバラエティ番組 『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞‼』(二〇二〇年十一月二十二日放送分)
ニューヨークがゲスト。その前のゲストの時は、第7世代の提唱者でリーダー的存在の霜降り明星と、バチバチの対立構造でスタジオを沸かせていたが、キングオブコントで準優勝を果たし、テレビ露出も一気に増えたので、まるで人が変わったかのように丸くなっていた。
しかし、順風満帆なニューヨークにも、一つの悩みが。嶋佐さんが、切実そうに「孤独かい?」と尋ねると、粗品さんも同じトーンで「孤独だよ」と呟く。これをきっかけに、話はまた別の方向へ流れ出す。
せいやさんは、毎日毎日自宅と仕事場との往復で、心をすり減らしていた。自分が全く笑っていないことに気付き、風呂場でわざと声を出して笑おうとする始末。
自分は本当は暗い、友達もいないと吐露するせいやさんは、とうとうこの孤独感から逃げようと、太田さんと一緒に住みたいと懇願する。流石の太田さんも、これには驚いていた。
その後にEXITが登場してテレビに出れることの楽しさを力説したり、屋敷さんが元々ADとして関わっていた『ネプリーグ』に出る時の対策を相談したり、一番孤独を感じているのは太田さんではないかという話から、ニューヨークから「お坊さん」だと言われて、突然『鬼滅の刃』を絡めたたけしさんのものまねを太田さんがしても「お経を唱えました」とニューヨークの二人から同時に言われたりと、30分番組とは思えないほど濃密な内容だった。
この放送の後、孤独を抱えるせいやさんが『霜降り明星のオールナイトニッポン0』で自分の気持ちを正直に歌った名曲「原曲キーで歌わせて」を生み出したり、しもふりチューブでもその内容について触れていたりと、思わぬ広がりを見せていた。そんなあれこれがあったためか、せいやさんは元気を取り戻し、結果として闇を吐き出せて良かったと思える回になった。
次点で、『アメトーーク!』(二〇二〇年七月二日)の小物MC芸人、『水曜日のダウンタウン』(二〇二〇年十月二十一日)の「NSC時代に同期一の天才だった芸人、意外とくすぶってる説」、『相席食堂』の『特別企画「大悟vsノブ 世紀の野球対決」』(二〇二〇年四月一四日)。
・マイベストネット動画 すゑひろがりず局番より「香水 / 瑛人 すゑひろがりず【 和風変換して歌ってみた 】 MV再現」
二〇二〇年一番のお笑い系の収穫は、すゑひろがりず局番を見始めたことだと思う。のめり込み過ぎて、一日に何度も見て、このエッセイ内でもすゑひろがりずについての話を書くほどである→https://kakuyomu.jp/works/1177354054890042435/episodes/1177354054897195927
二〇二〇年のネット動画のベストはすゑひろがりず局番からだろうなと思ったが、好きな動画が多すぎて悩んだ。「【 バイオハザード RE:2 】#23 すゑひろがりず 閉じ込められて大パニック! 【 狂言風ゲーム実況 】」や「【 あつまれどうぶつの森 】 #3 すゑひろがりず、南條の島を初公開!【 狂言風ゲーム実況 】【 あつ森 】」や「【 バイオハザード RE:3 】#16 すゑひろがりず 七転び八起き【 狂言風ゲーム実況 】」もめちゃくちゃ笑ったが、これらのゲーム実況は前回からの繋がりも含めての面白さなので、単発でも、初心者でも楽しめる、そして一番リプレイしたという意味では、この「香水」のパロディ動画を選んだ。
MV再現なので、真っ黒な背景の中で、南條さんが椅子に座って歌い、三島さんは舞妓さんのかつらを被って扇子を持って踊る。そして、アコーステックギターを弾いているのはうるとらブギーズの佐々木さんである。当然、全員が和服だ。
現代の若者の心情を描いた「香水」の歌詞を、全て見事に和訳変換している。特に耳に残る、あのサビのフレーズは「そちの沢庵並びにべったらのその香の物のせいじゃよ」となり、それにちなんでタイトルも「香の物」である。
個人的に好きな変換歌詞は、「あまたの歌を詠みにけり」「枕もすでに乾きつつ」である。元の歌詞は実際に聞いて確かめてほしい。
コメント欄には、「古典の先生が授業で流した」と書かれてあり、教材になれるほどの完成度の高さを誇っている。また、「初めてフルで聞いた『香水』がこれだった」というコメントもあったが、それは私も同じで、あまりテレビなどでは流れないCメロ部分では、このすゑひろがりずバージョンでしか思い浮かばなくなっている。
このクオリティを維持しているのは、南條さんの歌声、佐々木さんのギターの調べ、そして三島さんのコンテンポラリー和風ダンスによる力も大きい。特に、『アメトーーク!』の踊れない芸人としてお茶の間に爆笑をお届けした三島さんが、扇子を持って踊り出すと、体の運びがスムーズになるのが不思議だ。三島さん曰く、「音に身を任せただけ」らしい。
こちらの動画は、再生回数が二百万を突破している。テレビでも紹介されているらしいので、これからもどんどん伸びていくだろう。私も、また何度も見てしまい動画である。
次点で、「金属バットの声流電刹 第0回」、しもふりチューブの「粗品の実家の焼肉屋味希で登録者100万人突破を祝います!!【霜降り明星】」。
・マイベストラジオ 『空気階段の踊り場』より「白鳥の親父と再会」(二〇二〇年七月二十五日)
二〇二〇年から新しく、ラジオを聴き始めた。きっかけは、六月二十日の『霜降り明星のオールナイトニッポン0』こと通称・ポケひみ回を日本文化放送のホームページから聴いたことだった。
好きな芸人さんのラジオはチェックするべきだなぁと思った私は、霜降りANN0と、ツイッターのTLで良く面白いと聞いていた、『空気階段の踊り場』を六月から聴くようになった。
聴き始めた頃、私は芸人ラジオの面白さというのがまだよく分かっていなかったのだが、毎週新鮮なトークをほぼノーカットでじっくり聞けるのが、テレビとは異なる面白さだということを知った。
『空気階段の踊り場』も、二人が遭遇した出来事や思い出などを話したり、時々予定外の所へ脱線して、それからまた新しい企画が生まれたりするところに、魅了され、毎週の楽しみになっていた。
この「白鳥の親父に再会」の回は、もぐらさんがタダでも飲める水をわざわざ買うことに抵抗がある、それは昔団地で住んでいた影響ではないかという話から、『アメトーーク!』の団地芸人に出る前に、自分が幼少期を過ごした千葉県の一軒家団地を訪ねた時のことをもぐらさんが語り始める。
その団地に向かう途中には、もぐらさんの一番目の父親、通称・白鳥の親父が働いている生コン屋の前を通り過ぎる。もう十四年も会っていない白鳥の親父と再会しても、何の話をしたらいいのか分からないので、緊張していたが、そこでは遭遇しなかった。
もぐらさんがそこを通り過ぎた後のコンビニで煙草を吸おうとしていると、駐車場に軽トラが止まり、白鳥の親父が下りてくる。驚くもぐらさんの前で、白鳥の親父は、二時間前に別れたかのような調子で、「おい、翔太(もぐらさんの本名)、お前何してんだ」と話しかけられた。
白鳥の親父によると、今まで休憩に入っていたが、生コン屋の下の人がもぐらさんが通ったと教えてくれたので、追いかけてきたという。帰郷の目的を知った白鳥の親父の運転で、団地まで送ってくれることに。
その下の人のおかけで、当人から連絡はなかったがもぐらさんが芸人になっていたことは知っていた白鳥の親父。もぐらさんは、その白鳥の親父の耳に見覚えのないダイヤのピアスをしているのに戸惑い、その理由を聞けないまま、車に揺られる。
二三分間の道中、白鳥の親父からパチンコやっているかどうかを聞かれたり、子供を連れて来いと言われたりしたもぐらさん。その時に、もぐらさんは親父が「孫」と言わなかったことに距離を感じてしまう。
団地について車から降りる所で、「あ、そうだ」と呼び止められたもぐらさん。白鳥の親父が放ったのは、「翔太、やっぱりジャグラーは面白いな! あそこ、ダイナバンドのあそこ、十円だから毎日行っちゃうんだよ!」という言葉だった。
かたまりさんと同じタイミングで、私も爆笑してしまった。「あ、そうだ」からの間で、何と言うのだろうかとドキドキしたが、全く予想外の一言だったからだ。これを当てられた人はいないと思う。どんなにぶっ飛んだフィクションでも出てこない、しかし本当にあった一言だと思うと、「事実は小説より奇なり」なんだと妙に感動してしまう。
その後、もぐらさんは数が減ってしまった団地の中を歩いたり、幼少期の自分を知っているおばさんと再会したり、もしも母親が白鳥の親父と会ったことを知ったらなんと言うか予想したりと、色々と盛り上がりがある。ラジオクラウドのアフタートークも、帰郷に関する話でそちらもまた面白かった。
こちらの放送は、ラジオリスナーが選ぶ「プラネット賞」の7月の月間賞を受賞していた。面白いと人生の深みが同時に味わえる放送で、その選出理由にもとても納得できた。
次点で、『空気階段の踊り場』の「インパクトの歌」(十一月七日)、『霜降り明星のオールナイトニッポン0』の六月十九日放送分と十一月十七日放送分。
以上が、二〇二〇年のお笑い系マイベストである。正直、コアなお笑いファンから見ると、ベタな選出だが、去年の世相や自分の気持ちも色濃く出ているのではないかと思われる。
今年もすでに半分になろうとしているが、これからも、面白くて楽しいお笑い関連の映像やラジオでゲラゲラ笑って過ごしていきたい。
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