黒薔薇は今日も咲く

夢百合

日常編①

第一輪

 暗い路地裏に銃声が響く。

 ここはとある国のとある街のスラム街。今日も一人、人が消えた。

 少女は殺し屋を営んでいる。名前はない。だが、真っ黒な目に真っ黒な髪、そして黒い薔薇の髪飾りを付けている、そしてアジア顔なことからクロバラと呼ばれている。



 「ちっ、手間かけさせやがって。 ……おい、ガイア」

クロバラは銃を下ろし、口を拭う。そして袖に付いた返り血を見、顔をゆがめた。

「お、終わったか。お疲れさん。ほら、飲むか? 」

缶コーヒーを差し出してくるこの男の名はガイア。クロバラのお得意様だ。よく依頼を頼む。ガイアここらを統治している5つの家の一つ、コールソン家の当主。敵も多いだろう。月に何回かのペースでクロバラに依頼を出すのだ。

「缶コーヒーは飲まん、早く報酬をよこせ。 」

「まあまあ、それは後ででいいじゃないか。 それより、デラルークのカリーナがまたなんかやらかしたらしいぜ? 」

デラルークもまた、ここを統治している家の一つだ。その家に生まれた5つの子供のうちの長女、カリーナはとてもわがままなお嬢様で、たまたま仕事で一緒になったクロバラのことを気に入ってしまった。それからというもの、カリーナはクロバラの言うことしか聞かないのだ。時々カリーナを宥めにクロバラはデラルーク家に駆り出される。

「はあ……またか……。 」

クロバラは深い溜息をつく。

「それで、またアンドレアから俺に連絡が来た。 それで次の仕事だ。 」

「まさか……」

「ああ、カリーナを宥めに今から行くぞ。車はそこに停めてあるから安心しな。 」

ほら行くぞ、とガイアは歩き出した。瞬間、ガイアの顔を銃弾が掠めた。

「ふざけるな……ふざけるなよ! 私は! これから! 仕事終わりのティータイムなんだ! 絶対行かないからな! 」

こめかみに青筋をたてながら銃を向けるクロバラ。

「まあまあ、落ち着けって」

宥めようとするが、クロバラは収まらない。

「毎度毎度勝手に了承しやがって! 私だって忙しいんだ! 」

「お前いつもお茶飲んでるだけじゃねえか! 」

「お前が電話してくるタイミングがいつもティータイムのときなんだよ! 考えろ! タイミングをよお! 」

「知らねえよそんなこと!」

 この2人はまだ知らない。この会話が、あと数時間も続くことを。そしてこの後、疲れた2人はカリーナのことを完全に忘れ、ご飯を食べに行くことを。



 一方その頃、デラルーク家では……

「お父様!? クロバラお姉様はまだですの? 早く連れてこないと、お母様にあのこと、言ってしまいますわよ? 」

「そ、それだけはやめてくれ! おい! ガイアとなぜ連絡がつかんのだ! 」

と、騒ぎになっていたそうな。

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