第3話:白と黒の混沌(カオス)

作家、ばんの丈は鬼才だった。その才能は誰も追いつけないとされてミステリー、ホラーでは右に出るものはいなかった。

俺は、やっぱり語りたいんだ。本と戯れ、本と生きている。だから、本なんて興味もなさそうな女が言いよってくるより、本が好きで語れる女性と恋したいのだ。


彼女を捜していくにつれ俺は独りの家にたどり着いた。ばんの丈先生の旧邸だ。

そこには鍵がかけられておらず、幽霊屋敷として朽ちていくのを待つだけになっていた。屋敷に招き入れられるように入っていくと、不自然に開いていたパソコンが起動していた。恐る恐る近づいてみるとそこにはプロットに近い遺書が書いていた。


 【僕には小説を書く才能はないし、ましてや彼の頭の中を覗けない......。だから、僕は彼の才能を作品をフリーゲームサイトに残すことにした。


思えば、僕の才能は二人で作ったテーマパークホラーが最初で最後だった。僕はゲーム会社のプログラムエンジニアとして働く合間を縫って、友人とオリジナルゲームを無料投稿サイトに投稿していたりするほどの根っからのゲーム好きだった。ゲーム性や基案は僕がやっていたが、シナリオは彼、-今はYとしよう-Yが担当していた。


はじめに僕が放ったのが


「テーマパークは好きじゃない。ぬいぐるみの視線が好きになれないんだ。」


という何気ない会話だった。そしてYは


「いいねそれ、今回のテーマに使えそうだね。プロット起こしとくよ。」


そうして出来たのがパークインザダーク。その陰鬱さと、視線の演出は評価されプチヒットした。

だが、俺はそれでは飽き足らず、彼と共に同人小説として打ち出したのだった。

いや、彼のパソコンを使って勝手に小説にしていった。初めはYも面白がって特に言及はしなかった。そして僕はデスゲームで人の醜い裏の顔を見る物語が書きたかったのでデスゲーム形式で進めていた。すると、読者としても関わっていたYは顔をしかめて


「うーん、これじゃ、幻想的な雰囲気と合わないんじゃないかな?」


僕はパソコンに目を向けたまま


「いやあ、これが案外いい感じに読んでもらってるからいいんだよ。単なる不気味さ、ファンシーさだけでは読者はついてこないんだよ・・・。」


と冷酷なまでにYに現実をつきつめてしまった。

僕のさっぱりしてる性格はうんざりするほど知っているがこうも裏目に出るとは思わなかった。


今君がどこかで見てるなら教えてほしい。

このプロットには

「人間関係の鬱陶しさと新しいものへの執着」

とテーマ付けられてるが、鬱陶しいって僕のことなのか!? そうなんだろ!!


君の才能を横取りしたのは僕かもしれない。ウンザリするのも無理はない。ばんの丈みたく謎の失踪を遂げたんだろうか。


…すまないと思っているから戻ってきてほしい。また、二人でやり直そう…】


どういうことだ? ばんの丈は自殺じゃないのか?


「何してるの?」


「うわぁ! って秀美? 驚かすなよ」


「幽霊屋敷に突っ立ってたからちょっと心配しちゃった」


「いや、パソコンがそこに......ない?」


「早く帰るよ。こんなところ気味悪いし」


「あ、ああ。そうだな」


冷静になるためにも俺は一度帰ることにした。

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ハーレムフラグはうんざりだ! 小鳥 遊(ことり ゆう) @youarekotori

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