第2話:図書室の彼女
図書室は静かでいい。とにかく、二人から離れられて良かった。
ちょうど読みたかった本もあったし、ステキな彼女を横目にしながら・・・。
名前も、声も知らない。だけど、あの子の本と真剣に向き合っている顔が好きなんだ。黙々と、時に感情的に体を揺らす姿そのすべてがいとおしい......。おっと、ちょっと変態じみてしまった。
加えて、彼女とは波長が合うだろうと言う絶対的な核心が自分にはある。それはおれと同じようにミステリー作家「ばんの丈」好きだからである!!
これはほんとにたまたまなのだが、一度、図書室へ向かう階段の途中で彼女が帰ろうと降りて来たのを見たのだが、この時借りていたのがなにを隠そう“ばんの丈”処女作、「オレンジ色の時計」だったのである。彼の人気作「奴の名は」ではなく、あえてのマイナー作を選んでる辺りいい趣味をしてるはずだ。僕もばんの先生の作品は全て網羅している。
「・・・にぼーっとしてんの?」
急に誰かに話しかけられた。俺はびっくりしてしまった。ふと見ると彼女はいなくなっていた。
忌々しさ満点の顔で見上げるとそこには幼なじみの東條秀美がいた。秀美は男っぽい性格とボーイッシュな面持ちのやつだったのだが、最近雰囲気が変わって髪も伸ばしてきた。
「レント、どこ見てんの?」
「また、声をかけ損ねた。」
「例のバンジョーが好きな子?」
「バンジョーじゃなくてばんの丈!!何回言ったら分かるんだい?この陸上バカ。」
「いつも言ってるけど、そんな子見たことないよ! それよりさ、あんた最近モテてるよね・・・。私、妬いちゃうよ?」
これは・・・こいつもフラグ対象なのか! 面倒だな、こいつとは長い付き合いだからな。だからと言って彼女を諦めるわけにはいかない。俺は幽霊にでも恋してる言い方だが、絶対彼女はいる。だが、どうやって彼女を見つければ・・・俺は秀美が俺に小言を言っているのを無視して彼女がいた席に移動した。
「・・・ど、どうしたの怖い顔して。」
「ばんの先生の“カオス”がある」
「それがどうしたのよ」
「本が好きな人なら、本を開いて後ろ向きにしない。普通はしおりを使うよ。何かあるのかも......」
俺はその本を開けると、カオスの32頁に折り目を付けられていた。少し憤慨しそうになったのを落ち着き、考えた。カオスといえば伏線がなく、意味が全く分からないが、実は頭部分だけを読んでいくと犯人の手記になるという斬新な作品だった。32頁は中でも意味が分からなかった。今でも覚えている。だが、これには重大な事が隠されていたことは一部の読者しかいない。
「それで、なにかわかったの? ホームズ気どりさん。」
「もしかしたら、例の女の子はばんの先生と関係があるのかも知れない。」
俺はカオスを持ち出し、所定の位置に戻し図書室を後にし階段を降りようとしたその時、秀美が抱きついてきた。
「なんで、私のこと見てくれないの? 一番近くにいるのに・・・。こんなに頑張ってるのに。名前も声も、どんな人なのかも、存在さえ怪しい彼女をなんで追うの?私を見てよ!!」
「悪い、秀美。 俺はもう彼女に取りつかれてるのかもしれない。放してくれ。それに、しいて言えばお前は変わらない方が好きだったぞ・・・。じゃあな。」
力強いハグはだんだんと緩み、レントを放した。彼は彼女の顔を見ないまま、学校を後にしたのだった。
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